キャスターという仕事

著 者:国谷裕子
出版社:岩波書店
出版日:2017年1月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)

 著者のことは多くの方がご存じだと思うが、敢えて紹介する。「クローズアップ現代」というNHKの報道番組のキャスターを、1993年から2016年までの23年間、基本的にひとりで務めた人だ。そしてその降板にあたっては「政府からの圧力」を取り沙汰されている。

 本書は「クローズアップ現代」の10年ほど前、著者がNHKの英語放送のアナウンサーとして雇用されたところから書き起こされている。その後、総合テレビのキャスターとしての挫折、衛星放送で鍛えられた経験などが短く紹介される。残り8割「クローズアップ現代」の日々が、著者が持つ鋭い問題意識を通して様々に綴られている。

 繰り返し言及されるのは「言葉の力」「言葉の怖さ」だ。テレビの世界にあっては「映像」こそが最大の「情報」。しかし「映像」は複雑な問題や思想を伝えることができない。そこで重要になるのが「言葉の力」。それはニュースでは視聴者に語りかけるキャスターが担う。

 しかしその「言葉」には怖さもあると著者は言う。例えば「ねじれ国会」。ただ単に、衆参の多数党が違う状態を表しただけの言葉のはずが、「正常ではない事態」というニュアンスを含む。そうすると「正常化」しようという投票行動を、意図せず誘導することになりはしないか?著者の言葉へのこだわりはこれほどにも厳密で繊細なのだ。

 とにかく示唆に富んだ言葉がたくさんある。報道や今の社会のあり方に関心がある方は、是非読んでほしい。

 最後に「政府からの圧力」について。本書を手に取った人の多くは、そのことにも関心があっただろう。ネタバレになるけれど、そのことについては明言していない。しかし「伝える仕事」を長く続けてきた著者が、何も伝えていないとも思わない。全体ににじみ出る私たちへの「警告」のニュアンスから「圧力はあったのだ」と私は感じた。

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