著 者:西加奈子
出版社:ポプラ社
出版日:2016年11月29日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
本屋大賞ノミネート作品。以前に読んだ直木賞受賞作の「サラバ!」がとてもよかった。私はその年の本屋大賞の予想で「サラバ!」を大賞にしていた。実際の結果は2位だったけれど、それでも多くの支持を集めたことには違いない。
本書の主人公はアイ。フルネームは「ワイルド曽田アイ」。アメリカ人の父と日本人の母を持っている。物語の初めには高校1年生だった。本書冒頭の一文は「この世界にアイは存在しません。」これは数学教師が虚数のiを説明した言葉だけれど、この一文は意味合いを変えて度々登場することになる。
アイは両親と血がつながっていない。シリアで生まれたアイは、まだハイハイを始める前に養子として両親の元にやって来た。小学校まではニューヨークで暮らし、中学入学に合わせて日本に来た。両親は愛情を込めてアイを育てた。
その愛情にアイは苦しんだ。自分が「不当な幸せ」を手にしているという気持ちが心から離れない。素直に感謝できないなんて許されない、という気持ちが、二重にアイを苦しめた。それほど繊細な子どもだった。
本書には「サラバ!」との共通点がある。主人公が中東の生まれであること、あまり積極的に物事に関わらないこと。その主人公の半生を描いた物語であること。もちろん違う点もある。「サラバ!」では騒動は主人公の周辺で起きたけれど、本書ではアイの内面で起きる。もどかしくなるほど内省的な主人公なのだ。
物語には、9.11から始まって、天災やテロなどの現実に起きたたくさんの事件についての記述がある。遠く離れた場所の不幸さえ、アイは抱え込んで、内へ内へと閉じこもってしまう。ただ、たった一人の親友が外の世界への窓となる。一人でもそういう人がいれば救われる。そんな物語。
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