ポストデジタル時代の公共図書館

編  者:植村八潮、柳与志夫
出版社:勉誠出版
出版日:2017年6月5日 初版発行
評 価:☆☆(説明)

 まず最初にタイトルの「ポストデジタル」について。本書は当初「公共図書館と電子書籍」というテーマで企画された。しかしそれでは、類書がすでにあり議論に広がりもないため、「デジタル時代の公共図書館」とテーマを改めたそうだ。切り口を「電子書籍」から「デジタル時代」に広げることで、議論にも広がりを、という狙いだろう。では「ポスト」はどこから?..それは後ほど。

 全部で8章。内容的には「電子書籍・電子図書館の課題」「米国における公立図書館と電子書籍」「電子書籍がもたらす変革と図書館の対応」「大学図書館における現状と問題点」「公共図書館におけるデジタルサービスの位置づけ」「デジタルアーカイブ」について2章「公共図書館の未来と展望」

 生真面目な本だ。上に書いた「内容」は章のタイトルを要約したものなのだけど、これを見て思い浮かぶのは「○○白書」だ。最初の方に「現状」続いて「課題」その後に「個別の話題」最後は「展望」。それが悪いわけでない。「○○白書」がそうであるように「現状認識」には向いている。

 様々な統計データも丹念に調べられているし、テーマも網羅されている。特筆すべきは、米国の公共図書館についてのレポートで、彼我の違いがくっきりと浮かび上がる。テキサス州のある郡では「紙のない図書館」の3館目が建設中だという。

 ただやはり残念に思う。デジタル環境の発展によって「図書館という仲介は、必ずしも必要ではないのだ」とか、「紙の資料を求める利用者と、貧弱なICT設備しか提供できない公共図書館との間で、需給の均衡が保たれている」とか。諦めてしまったかのような言葉が随所に見られる。

 残念に思うのはこのことだけではない。「ポストデジタル」は21世紀初頭までの「デジタル時代」ではなく、2010年以降の「Google検索とSNSコミュニケーション時代」を指しているそうだ。この認識には異論はあるが「ひとつ先の時代」という意識は分かる。

 先に「ポスト」はどこから?と疑問を投げかけたけれど、これは「ひとつ先」への期待と意気込みを表しているのだと思う。だからこそ、本書の議論が「現在まで」の「現状認識」で終わってしまっていること、その先については、ほとんど語られていないことを、とても残念に思う。

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