報道しない自由

著 者:西村幸祐
出版社:イースト・プレス
出版日:2017年12月1日 第1刷 12月24日 第2刷 発行
評 価:☆(説明)

 私は、基本的には読みたいと思った本を読んでいるのだけれど、時には、私自身の考えと相容れない本を敢えて読むことがある。その考えを知るのには、書籍を読むのがテレビや雑誌の記事よりも何倍も正確だと思うからだ。本書もそう思って読んだ本。つまり本書は、私自身の考えと相容れない。おススメもしない。

 本書は、メディアが特定の目的をもって「報道すべきニュースを報道していない」と主張する。「特定の目的」とは、例えば「憲法改正阻止」であり、その背景には「反日ファシズム」つまり「東アジアで冷戦構造を保とうとする全体主義」がある、としている。

 「憲法改正阻止」はともかく「反日ファシズム」については、何のことかも正直分からない。個別の例で言うと、森友問題は「北朝鮮の脅威を隠すための策略」で、加計問題は安倍総理の「憲法改正スケジュール発表への打撃」が目的なんだそうだ。それぞれ、北朝鮮のミサイル開発や、憲法改正スケジュールを「報道しないために」打ち上げたキャンペーンというわけだ。

 「牽強付会」という四字熟語が頭に浮かぶ。それらしい論理の組み立てに見えるけれど、自分に都合の良い話を寄せ集めているだけだ。そして「都合の良い話」と言っても、「某民放テレビ局幹部」の発言とか、「政権内からこんな声が漏れ聞こえていた」とか、あるいは著者と同じような思考の人の意見や調査とか、疑わしいものが多分に含まれている。また、都合の悪いものがあれば「明らかな嘘」で、片づけられる。

 こんな感じで、私には得るものが少なかった本なのだけれど、ひとつは収穫があった。それは「閉された言論空間」という江藤淳氏の書籍と、その中で言及されているGHQの検閲に関する文書のこと。この書籍と文書が、この手の論者がいう「偏向報道」の論拠になっているらしい、ということが分かった。

 GHQの文書には、占領下の日本で検閲・削除の対象とした30項目か記されている。それに「GHQが憲法を起草したことに対する批判」「朝鮮人に対する批判」「中国に対する批判」などが含まれていて、著者らは「偏向報道」の理由と証拠の恰好の素材として、「これが今も続いているんだ!」と飛びついた、ということらしい。

 70年以上前の占領下での検閲が今も続いている、という主張については敢えて論評しないけれど、江藤淳氏の書籍とGHQ文書は、ちょっと興味がある。

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