百貨の魔法

著 者:村山早紀
出版社:ポプラ社
出版日:2017年10月5日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 本屋大賞ノミネート作品。著者は昨年は「桜風堂ものがたり」でノミネートされ、第5位になった。出版社は異なるけれど、本書はその姉妹作にあたる。

 舞台は「風早の街」にある「星野百貨店」。50年前に商店街の核となるように建設された老舗百貨店で、街のシンボルのような店。主人公は、ここに勤める従業員やテナントの店員らが、章ごとに入れ代わって務める。エレベーターガール、靴屋の店主、贈答品フロアのマネージャー、郷土資料室の職員、そしてドアマン。

 全体を通して語られるものが2つある。一つは星野百貨店に新しく設けた「コンシェルジュ」に就いた芹沢結子のこと。もう一つは、願いを叶えてくれるという魔法の白い子猫のこと。そして、時にこの2つのことは溶け合って語られる。結子は魔法の猫の化身なのではないか?と。

 著者が「あとがき」で「卵をあたためるように、じっくりと考えてゆきました」と書いているけれど、その通りに丁寧に紡ぎだされた感じのする物語だった。百貨店で働く一人ひとり、訪れるお客さんの一人ひとりに、物語がある。その物語に、この百貨店に流れた50年という時間が、うまく使われている。

 今は、百貨店には厳しい時代だ。スーパーやショッピングモール、ネット通販など、他の業態との競争は分が悪い。そんなご時世に星野百貨店は、ホテルとコンサートホールと映画館を併設して、レストランではピアノの生演奏があり、エレベーターガールまでいる。

 やっていけそうにない。いずれ大きな船が沈むように閉店してしまうだろう。でも、私の街にこんな百貨店があって、そこにこんな人々がいたら素敵だな、と思う。そして...やっぱり、こんな人々と「魔法の猫」がいたら、この厳しい時代も乗り越えられそうだ。

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