著 者:新井紀子
出版社:東洋経済新報社
出版日:2018年2月15日 第1刷 3月5日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
著者は、人工知能(AI)プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトディレクタを務める数学者だ。本書は、著者がプロジェクトを進める中で得た2つの知見が書かれている。一つは、今の研究をどれだけ進めても、AIは人間の知能を越えられないこと。もう一つは、日本の中高生の多くは、教科書が読めていないこと。
「AIは人間の知能を越えられない」について。まず、AIは「意味が理解できない」。例えば、AIの一つの成果とも言えるAppleのSiriは「おいしいイタリア料理のお店」と「まずいイタリア料理のお店」の違いがわからない。「イタリア料理」と「イタリア料理以外」も区別できない。
試しに「「この近くの~」と訊いてみてください」と著者が言うので、聞いてみたら、「おいしい」も「まずい」も「以外」も、同じ店が紹介された。これは現在のSiriの問題ではなく、今のAI技術が抱える問題だそうだ。今のAI技術が採用している、統計と確率の手法を用いた自然言語処理技術では「意味が理解できるようにはならない」。当然、人間の知能を越えることもできない。
もう一つの「日本の中高生の多くは、教科書が読めていない」について。これは、著者らが行った全国2万5000人の「基礎読解力調査」の結果から分かったことだ。教科書や新聞の小中学生向けの記事を使って、ある文章に書いてあることの意味を問う問題で、二択~四択の選択問題だ。
例えば、次の2つの文の内容が同じことを表すかどうか?という問題
「幕府は、1639年、ポルトガル人を追放し、大名には沿岸の警備を命じた」
「1639年、ポルトガル人は追放され、幕府は大名から沿岸の警備を命じられた」
中学生の正答率は57%。これが意味することが分かるだろうか?Yes/Noの2択の問題だから「コインを投げても」50%は正解する。受験した生徒たちは、大半が意味が分かっていなかったに等しい。
この2つのことがどうつながるのか?実はAIと中学生には共通点がある、ということにつながる。「意味を理解する」という、AIができないことを、大半の中学生も苦手としている。よく「AIに仕事を取って代わられるとしても」という話題で、「人間はAIができないことをやればいい」いう答えが定番になっているが、この答えの実効性がとても怪しくなる。大問題だ。
本書に書いてあることは、知って楽しい気持ちにはならないけれど、たくさんの人が知っておいた方がいいと思う。
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