スマホが学力を破壊する

著 者:川島隆太
出版社:集英社
出版日:2018年3月21日 第1刷 4月10日 第2刷
評 価:☆☆☆(説明)

 著者は現在、東北大学加齢医学研究所所長。2003年に「脳を鍛える大人の計算ドリル」「~音読ドリル」を出版し、セガトイズや任天堂からソフトが発売され大ヒット、「脳トレ」ブームの嚆矢となった。

 その著者が、スマートフォンの仕様に警鐘を鳴らす。帯に「スマホをやめるだけで偏差値が10上がります」とあり、逆に言えば「スマホをやると偏差値が10下がる」ことになる。さらに「脳とスマホの驚くべき関係!」ともある。「トンデモ本」との評もある「ゲーム脳の恐怖」を思い出す。

 先に言っておくと、本書が信用に足るものなのか、「ゲーム脳の恐怖」の類書であるのか、私には分からない。統計調査をかなり精密に行っていたり、著者自身が脳機能の専門家であり、脳の活動量の測定に専門の機材をしとうしていたりと、「ゲーム脳の恐怖」とは明らかに違う。だからと言って鵜呑みにはできない。

 本書を書くきっかけとなった調査の内容を簡単に。仙台市の中学生22390名のデータ。平日のスマホ使用時間(6区分)と平日の家庭学習時間(3区分)をクロスさせた18区分で、それぞれ国数理社の平均点を算出して比較。スマホを使う時間が長いほど成績が悪い。それだけではなく、家庭学習を2時間以上しても、スマホを3時間以上使うと、家庭学習が30分未満の人より成績が悪い。

 つまりスマホを長時間使うと、家庭学習の成果がどこかに消えてしまう。「スマホを長時間使うと成績が悪いのは、その分勉強時間が短いからだ」という仮説は覆された。ちなみに「その分睡眠時間が短いからだ」も正しくない、ということが(少なくとも著者の主張では)明らかになっている。

 それから「相関関係」があるからと言って「因果関係」があるとは言えない、という反論にも著者は答えている。3年間の追跡調査を行って、スマホを持っていた人が持たなくなると成績が上がる、持っていなかった人が持つようになると下がる、という傾向を発見した。

 著者の正直なところは「こういう傾向は分かったけれど、それが何でなのかは分からない」というところだ。ただ「何でなのかは分からなくても、やめた方がいいよ」というわけだ。確かにそんな気もする。

 反論したいこともたくさんある。学習の「時間」だけに注目して「質」は考えないでいいのか?とか、3年間の追跡調査は「相関関係が推移」しただけで「因果関係の証明」にならないんじゃないのか?とか。

 まぁ、スマホを長時間使ってちゃダメそうなのは、身体感覚として分かる。でも、学力という本当は様々な要因が複雑に関係するものを、スマホの利用というたった1つの事で説明できる「分かりやすさ」に危うさや怖さを感じる。

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