烏百花 蛍の章

著 者:阿部智里
出版社:文藝春秋
出版日:2017年7月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 八咫烏シリーズの外伝。このシリーズは、八咫烏が、私たちと同じ人間の形になって暮らしている、という世界で、平安京にも似たその宮廷が舞台。本書には6編の短編を収録。6編を簡単に紹介する。

 「しのぶひと」は、若宮妃付きの真赭の薄と、その弟の明留、若宮の護衛の澄尾の物語。真赭の薄の縁談に絡んで、それぞれの想いが表出する。「すみのさくら」は、若宮妃の浜木綿の物語。身分をはく奪され「墨丸」と呼ばれていた子どもの頃の回想。「まつばちりて」は、下層の遊郭で生まれながら、その才によって宮廷務めに取り立てられた少女、松韻の悲劇的な物語。

 「ふゆきにおもう」は、貴族の娘の冬木と、彼女に仕えていた梓の物語。二人の行く道は一旦分かれ再び交わる。若宮の側近の雪哉の出生について語られる。「ゆきやのせみ」若宮とその側近の雪哉の物語。若宮の気ままな行動に振り回される雪哉。「わらうひと」冒頭の「しのぶひと」と対をなす真赭の薄と澄尾の物語。盲目の少女、結についても語られる。

 6巻ある本編が「后選びの宮廷物語」「皇位継承を巡る陰謀」「外界からの魔物の侵入」「全寮制の男子の成長物語」「異界に迷い込んだ女子高生」「種族間の対決」と、その振り幅の大きさは他に類を見ない。そのためもあって「主要な登場人物」も多いのだけれど、それぞれにきちんと性格付けがされている。本書は、その一人一人の背景にある物語を描く。

 また、カバーに「語られなかったあの人たちの物語」と書いてある。細かいことを言うようだけれど「語られなかったあの人の」「物語」と、「語られなかった」「あの人の物語」と両義になっている。松韻と冬木と梓は、本編ではほとんど、あるいは全く語られていない。その他は、本編で多く語られているが、本書で人物造形が補強され、中にはとても魅力的になった人もいる。

 外伝なので、本編を読んでから読んだ方がいい。また、本編を読み通した人は、本書も読んだ方がいいと思う。というか、読まずに済ませることなんてできないだろう。

 「蛍の章」ということは、これからまだ外伝が出るということだろう。期待が膨らむ。

 にほんブログ村「ファンタジー」ブログコミュニティへ
 (ファンタジー小説についてのブログ記事が集まっています。)
 にほんブログ村「ミステリー」ブログコミュニティへ
 (ミステリー小説についてのブログ記事が集まっています。)

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

3つのコメントが “烏百花 蛍の章”にありました

  1. 日々の書付

    『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』阿部 智里

    八咫烏シリーズの短編集『烏百花 蛍の章 八咫烏外伝』これまで電子書籍のみの発売であった短編が、新たに書下ろし2話を含む外伝集として発表されました。
    烏百花 蛍の章 八咫烏外伝新品価格¥1,512から(2018/5/2 01:00時点)
    電子書籍で発売された4話は以下の通り。
    『すみのさくら』
    浜木綿の小さい頃のお話。南家の姫として両親の愛情を一心に受け、何不自由なく育った浜木綿。ある日両親の失脚から宮烏の身分を剥奪され、寺に預けられることに。最初は境遇を受け入れられず脱走した…

  2. yokko

    本屋で見て,うれしくてすぐ買いましたが,買うといつでも読める,ということで積読になっている本です。
    この八咫烏シリーズ,年に1冊ずつ夏の時期に出ていましたが,今年はこの外伝のみなのかなと,それはちょっと残念です。

  3. YO-SHI

    yokkoさん。コメントありがとうございます。

    積読の本、私もあります。買っただけで安心してしまうんですよね。

    この本は、時代も主題もそれぞれの短編集なので、気が向いたときに気が向いただけ
    読めるので、そろそろ読んでみるのはどうでしょう?

    第二部の構想中でしょうから、今年はガマンで、来年から期待、ですかね。

日々の書付 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です