ナラタージュ

書影

著 者:島本理生
出版社:角川書店
出版日:2005年2月25日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 2018年上半期の直木賞を、著者の作品「ファーストラヴ」が受賞。その受賞作を読む前に、以前から著者の名前とセットで覚えていた本書を読んでみることにした。

 主人公は工藤泉。物語の大部分は彼女が大学2年生のころ。冒頭にもうじき結婚する男性と一緒に新居を見に行くシーンがある。本書は、その時点からの過去の回想を主人公自身が語る形で綴られる。ちなみに、タイトルの「ナラタージュ」は、「映画などで、主人公が回想の形で、過去の出来事を物語ること」だそうだ。

 大学2年生の春、泉は高校時代に所属していた演劇部の顧問の葉山先生から連絡を受ける。夏休み明けにやる演劇部の発表に参加して欲しい、という。「ひさしぶりに君とゆっくり話がしたいと思ったんだ」という先生の言葉に、泉は「四六時中ずっと胸の中を浸していた甘い気持ちがよみがえりそうになった」。泉は先生が好きだったんだな、そんな印象とともに物語は始まる。

 演劇の練習に参加したのは、在校生の新堂、伊織、柚子、泉と同級生だった黒川と志緒、黒川の大学の同級生の小野、泉も含めて全部で7人。演出と舞台監督を葉山先生が務める。その日から週末の練習が始まった。

 この後、大学生4人で「練習」と称して長野にある小野の実家に遊びに行ったり、泉と小野が仲良くなったり(黒川と志緒は元々付き合っていた)、発表会が終って黒川が志緒を置いてアメリカに旅立ったり..。大学生の青春モノのようなエピソードが続く。

 しかし、そうしたエピソードの合間に、泉と葉山先生の関係が思いのほか深いことが分かったり、高校生の不安定さが垣間見えたり、物語全体に緊張感が膨らんでいく。なるほど、本書を高く評価する人がいるのも分かる。ただの青春モノではないのだ。

 高く評価する人がいるのは分かるけれども、私にはちょっと合わなかった。私は普段「共感」や「倫理観」を、そんなに重視しないけれど、主人公たちの「これはどうなのよ?」という行動が気になってしまって、どうも楽しめなかった。

 最後に。ストーリーとは別に、著者は言葉の選び方がちょっと面白い。「小野君はじっと黙ったまま、子供のときの写真を見るような目でこちらを見ていた」とか。「子供のときの写真を見るような目」ってどんな目?考えるのは楽しいけれど、答えはでなかった。

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