知の越境法

書影

著 者:池上彰
出版社:光文社
出版日:2018年6月20日 初版1刷 7月5日 2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 池上彰さんが、国内外の出来事や歴史を解説する本は数多い(「知らないと恥をかく世界の大問題」という新書シリーズだけで9冊目が出ている)。私も何冊も読んできた。。しかし本書はそれらとは少し趣が違って、ご自分の経歴も振り返りながら「越境」について語り、読者にもそれを勧めている。

 本書では「越境」を主に2つの意味で使う。一つは、ドイツの専門家がフランス政治について語る、といった「専門の垣根を越える」こと。記者であった著者がキャスターを務めたのも、まさに「越境」。もっと言えば、著者は「専門」を持たないので、テレビで中東問題を話すのも、歴史問題を解説するのも、全部が「越境」になる。

 もう一つは、興味・関心を「横方向に展開する」ということ。例えば、再販制度という規制に守られた「新聞・出版業界」が、インターネットの出現で事情が激変したけれど、それは「放送業界」もそうだ、「規制緩和」ということでは「銀行業界」でも同じことが言える、といった話の転がり方をすること。「越境」を意識すると、いつもとは違う結びつきが見つかり、これまでとは異なる論理を展開できる。

 それで「越境する人が求められている」こと、ご自身は「こうして越境してきた」こと、越境には「リベラルアーツが重要」なこと、などを順に記す。「異境」「未知の人」から学んだこと、「越境の醍醐味」「越境のための質問力」も書かれている。「越境」というテーマ一つでこんなに多くを語る。改めて引き出しの多い人だと思う。

 冒頭にも書いたけれど、著者が何かを解説する本は多い。分かりやすくて「ためになった」感じがする。それに比べると、本書は扱う話題が広範にわたり、悪く言えば内容が散漫で「そうだったのか!」という感嘆が少ない。「横方向に展開した」結果がこうなっているのだけれど。

 でもどうだろう?もし著者とお話する機会があったら?「世界の大問題」を解説して欲しい?否。ご自身の経験や、お会いになった人のことや、物事の捉え方など、「広範なテーマ」を「横方向に展開」して、話を転がしてもらった方が楽しいだろう。本書は、まぁそんな本だ。

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