著 者:島本理生
出版社:文藝春秋
出版日:2018年5月30日 第1刷 7月25日 第5刷発行
評 価:☆☆☆(説明)
2018上半期の直木賞受賞作。
主人公は臨床心理士の真壁由紀。30代半ば。結婚して10年。夫と小学生の息子と3人で暮らしている。コメンテーターとしてテレビにも出演している。知名度が高いこともあって、出版社から本の執筆を依頼される。それは、世間の耳目を集めている、女子大生が父親を刺殺した事件の容疑者を取材して、その半生を臨床心理士の視点からをまとめる、というものだ。
その容疑者の名前は聖山環菜。22歳。女子アナウンサー志望の環菜は、キー局の面接で具合が悪くなり途中で辞退。数時間後に、父親が講師を務める美術学校で、父親を包丁で刺した。自宅へ戻り、母親と言い争った後、自宅を飛び出す。多摩川沿いを顔や手に血を付けたまま歩いていたところを目撃され、警察に通報される。
物語は、環菜との面会を通じて、由紀が事件の真相を解き明かす様子を軸に描かれる。「真相」と言っても、「事実」にはあまり争うことはなく、もっぱ「動機」についてだ。環菜は取り調べで「動機は自分でも分からないから見つけて欲しいくらいです」と答えた。本人にも分からない「動機」。臨床心理士の由紀になら明らかにすることができるのか?
冒頭からずっと不穏な緊張感が漂っている。最初はその緊張感を、軸となる「環菜の物語」と並行して明かされる、過去の「由紀の物語」が放っている。環菜の事件の担当弁護士が由紀の義弟で、二人の間に何かがあったことが仄めかされる。そちらが少しずつ明らかになるに従って、今度は環菜の生い立ちや環境が、何か禁忌に触れそうになって、心を騒めかせる。そして2つの物語が響き合い..。
登場人物の多くが心に傷を負っている。帯に「「家族」という名の迷宮を描く」とある。外からは分からない関係性がある、さらにそれぞれの心の奥は、家族同士にもうかがい知れない。そういう意味で「家族」は「迷宮」だ。本来、疲れた体と心を癒すはずの「家族」が、そのような場所ではない(かもしれない)ことを問う。本書は「問題作」だと思う。
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