著 者:関良基
出版社:作品社
出版日:2016年12月20日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
まずタイトルにある「赤松小三郎」の説明から。赤松小三郎は幕末の上田藩士。慶応3年(1867年)5月に、「全国民に参政権を与える議会の開設」「法の下の平等」など、現行憲法につながる憲法構想を日本で初めて提案し、その実現に奔走した。しかし、一般の知名度がほぼゼロなだけではなく、幕末・明治維新研究者からも黙殺されてきた。
著者は環境分野を専門とする研究者で、歴史学者でも憲法学者でもない。だから本書も「素人が何を言うか」という扱いを受ける可能性は高い。しかし、非専門家であるからこそ書けることもある。学会の「重鎮」とか「定説」とか「暗黙のタブー」とかに縛られることがないからだ。
そして「赤松小三郎の黙殺」も、その「暗黙のタブー」の類だとする。本書では、赤松小三郎の生涯とその憲法構想を詳述した上で、その「暗黙のタブー」に切り込む。さらには返す刀で、現在の日本の改憲論議にまで一太刀を浴びせる。考えれば当然のことだけれど、歴史は現在まで連続しているのだ。
これは様々な視点で重要な書籍だと思う。実は私は赤松小三郎についての知識がある。仕事で相当詳しく知った。だから本書も「赤松についての書籍が出版されて喜ばしいことだ。どんな内容か確認のために読んでおこう」という気持ちで読んだ。私の期待をはるかに凌ぐ充実ぶりと、示唆に富んだ内容だった。
重要と思う視点の一つめは、もちろん赤松小三郎の再評価の視点だ。歴史や憲法の非専門家とはいえ、著者は研究者だから、資料の紹介や引用などの取り扱いがとても丁寧だ。また決して単純ではない問題なのに、論旨が明快なために難なく理解できる。歴史研究の議論のベースとしても、赤松の功績の普及のためのテキストとしても使える。
ふたつめの視点は「憲法観」についての視点。現在の改憲論は、現行憲法を「GHQの押し付け」と規定することに論拠がある。しかし本当に現行憲法の精神は押し付けられたものなのか?という提議をする。赤松の憲法構想が「実現の一歩手前まで来ていた」とすれば、それは150年前に日本人が構想し手にしていたはずのものなのだ。
最初は「赤松小三郎のことを知ってもらいたい」という想いで、本書を読んでもらいたいと思っていた。しかし改憲が現実のものになろうとしている今、憲法について考えるために、できるだけたくさんの人に読んでもらいたい。本書のサブタイトルは「テロに葬られた立憲主義の夢」
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