「決め方」の経済学 「みんなの意見のまとめ方」を科学する

著 者:坂井豊貴
出版社:ダイヤモンド社
出版日:2016年6月30日 第1刷 12月15日 第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 著者は「決め方」を研究する経済学者。本書の議論の端緒は「多数決は人々の意思をまとめて集団としての決定を与えるのに適しているのか?」という、「はじめに」の中にある問いだ。答えを先に言ってしまうと「二択の投票以外は「否」」「二択の場合でも正しく使いこなす必要がある」だ。

 さらに「はじめに」にはこういう言葉もある。「選挙で(中略)人々の大意とズレる結果をよく選ぶ、と感じることがあるならば、その理由が本書の中に見つけられる」。ここ何回かの国政選挙を振り返れば、この言葉に強く関心を持つ人は多いだろう。さらに言うと、著者は「理由」だけでなく「対策」まで指南している。

 二択以外の投票で「多数決が適していない」「結果が人々の大意とズレる」理由は、多くの人が気が付いているだろう。ある論点に「賛成」の候補が1人、「反対」の候補が2人いれば、「賛成」の候補は、場合によっては34%の支持で勝ってしまう。残りの66%が「反対」であっても。「票の割れ」が起きるからだ。

 著者は、このような事態を招かない「もっと優れた決め方」をいくつか提示する。例えば「決戦投票」。初回の投票で1位が過半数を占めなければ、1位と2位で多数決を行う。例えば「1位に3点、2位に2点、3位に1点と、配点して投票する」。これは「ボルダルール」と呼ばれている。その他に「繰り返し多数決」や「総当たり戦多数決」「是認投票」などがある。

 これらの決め方を、2000年のアメリカ大統領選(ブッシュ、ゴア、ネーダーの三候補が立候補した)などの具体例を示しながら、とても分かりやすく説明してくれる。この大統領選が多数決ではなく、他の決め方だったらブッシュの勝利はなく、イラク侵攻もイスラム国の台頭もなかった(はず)ということも。つまり「決め方」が世界(結果)を変えてしまう。

 多数決に向いている「二択の投票」のことも紹介。二択の場合、人々が正しい判断をする確率が、例えば0.6(つまりコイントスで決めるよりは少し良いぐらい)でも、101人の多数決ならその結果は「約99%の確率で正しい」そうだ。この確率は計算で求められる。この限りでは、多数決はとても信頼できる「決め方」だ。

 ただし、多数決には「正しい使い方」の条件が3つある。(1)多数決で決める対象に、皆に共通の目標がある。(2)有権者の判断が正しい確率が0.5より高い。(3)有権者は各自で判断する(判断の独立性)。....つまり、党議拘束がある日本の国会での採決は、多数決を「正しく使っていない」。

 選挙は「二択以外の投票」だから、多数決に適していない。適していない方法で選出した議員たちが、正しくない方法で多数決を使って法案を採決している。今の国会や地方議会の多くはそういう状況にある。制定される法律が正しくないように感じるは当然だ。

 この「決め方」についての知識が、一般的な知識になることが、成熟した民主主義への第一歩だと思う。ぜひ一読を。

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