著 者:門井慶喜
出版社:講談社
出版日:2017年9月12日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
宮沢賢治を身近に感じ、父のあり方を考えた本。
2017年下半期の直木賞受賞作。
本書は、宮沢賢治の父、政次郎を主人公として、宮沢賢治の生涯を描いた物語。膨大にある賢治本人の資料に比して、政次郎の人となりを伝えるものは少ない。著者は、その少ない資料を丹念に収集することで、「政次郎像」を形作って「史実に基づいたフィクション」を完成させた。
冒頭は、京都に出張中の政次郎が、「男の子が生まれた」という電報を受け取るシーン。賢治の誕生の時だ。「ありがとがんす」「長男だじゃ」と口にするたび体温が上がる気がする。その足で東本願寺の閉まった門前に行き、「なむあみだぶつ」の称名をとなえた。
賢治が生まれたのは明治29年(1896年)。政次郎はその時23歳。政次郎の家は、質屋、古着屋を営む地元でも有数の商家。政次郎が出張から戻って、玄関に出迎えにでなければ、妻が「粗忽物!」と叱られる。そんな時代、そんな身分、そんな暮らし。
まぁ言ってみれば、男が必要以上に持ち上げられて威張っていた時代。そんな時代に、政次郎は賢治を(他の子どもたちも)慈しむ気持ちが、人一倍強かった。政次郎の父である喜助が「お前は、父であるすぎる」と言うほどに。この物語は、「家長としての威厳」と「父としての愛」の間を、政次郎が行ったり来たりする。「父としての愛」に振れた時に、著者が形作った「政次郎像」が浮かび上がる。
まぁこれは物語だし時代も違う。「家長としての威厳」なんて求められることはあまりなく、「父としての愛」を素直に出しても(煙たがられることはあっても)いいのだから、今の父親はそこに葛藤はないのかもしれない。いや政次郎ほどに子どもに愛を注げるか?と聞かれると全く自信がない。
宮沢賢治について。その作品から思い浮かべる「賢治像」とは、ちょっと違う賢治がこの物語には息づいている。でも「風の又三郎」も「雨ニモマケズ」も、この物語の中の賢治の人生の場所に、ピタリとはまっている。
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