この数学,いったい いつ使うことになるの?

訳  者:森園子、猪飼輝子、二宮智子 原著者:Hal Saunders
出版社:共立出版
出版日:2019年5月30日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「この問いに正面から答えたんだ!でもまぁそうなるよな」と思った本。

 本書は「When Are We Ever Gonna Have to Use This?」という、英語の書籍の翻訳(契約上の理由で全編ではないらしい)。数学の教員であった著者が「いったいいつ使うことになるの?」という生徒の質問に答えるために、100の異なった職業の人々に訪問取材をし、約60の数学の項目のうち、どれをどのように用いているか聞いた結果だ。

 「一般的な算数・計算」「実用的な幾何学」「初歩の代数」の3つパートに分かれ、各パートはさらに例えば「一般的な算数・計算」なら「分数」「小数」「平均」「比率と割合」...と項目が細分化されている。各項目に最小で9問最大で71問もの算数・数学の問題がある。

 例えば「比率と割合」の第10問はこんな問題。「土木技師(に必要):難易度☆☆☆

 あるコンクリート材はセメント94ポンド(1袋)、水50ポンド、砂191ポンド、砂利299ポンドの混合からなる。混合したコンクリート材の重量は1立方フィートあたり151.2ポンドになる。1760立方フィートの壁にはセメントが何袋必要になるか?

 私が冒頭に書いた前半「この問いに正面から答えたんだ!」は、本書の試みへの称賛だ。これまでは「どんな仕事でも数学の知識が役に立つんだよ」などの抽象的な答えをして、それでは聞いた子どもは胸に落ちないのじゃないかと思う。そもそも「いつ使うの?」という問いには全く答えていない。それに対して本書は正面から具体例で答える試みだ。その子がどんな職業に就くかわからないけれど、具体例なら「その職業では数学を使うんだ」ということは納得するはずだ。

 後半「でもまぁそうなるよな」は、本書の試みの限界を感じた言葉だ。具体例は具体的であるがゆえに「ある/なし」がはっきりしてしまう。例えば「司書」には「一般的な算数・計算」の例はあるけれど、幾何学や代数の例は載っていない。数学の項目としても一次方程式以降に習う代数が載っていない。載っていないからと言って、必要ないわけではないけれど「必要ない」ように見えてしまう。

 しかし、すべての職業で高校数学までの全部が必要かというと、それも違うだろう。具体例を積み上げれば「ここからは不必要」も明らかになるかもしれないが、それはそれでいいと思う。数学に限らず、このような学校の教科を職業や生活と関連付けること、その具体例を積み上げること、こうした試みが継続されるといいと思う。

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