ジェンダーについて大学生が真剣に考えてみた

監修者:佐藤文香
著 者:一橋大学社会学部佐藤文香ゼミ生一同
出版社:明石書店
出版日:2019年6月21日 初版第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 感心したり反省したり、よく知っているつもりで理解が浅いことを知らされたりした本。

 一橋大学の「ジェンダー研究のゼミ」に所属している学生たちが、友人・知人から投げかけられた、29の問いに答えたもの。悩みながらも真正面から向き合った「真摯で誠実なQ&A集」と帯に書いてある。

 ゼミの指導教員で監修者でもある佐藤文香教授が「おわりに」で、本書出版の経緯を書いている。ゼミ生たちは、友人や知人、ときには家族からさまざまな「問い」を投げかけられ、うまく答えられず、時には険悪になってしまう。その都度「どういえばよかったんだろう」と思い悩む姿を見て「みんなでグッド・アンサーを考えて..」と提案した..。

 「問い」には、例えば「男女平等は大事だけど、身体の違いもあるし仕事の向き不向きはあるんじゃない?」という、男女平等の必要は理解しながらの疑問もあれば、「性欲って本能でしょ、そのせいで男性が女性を襲うのも仕方ないよね?」という、信じがたいものもある。でもこれも学生たちが実際に受けた「問い」なのだ。

 本書ではこれらの「問い」の一つ一つに、「ホップ」(ジェンダーっで聞いたこともない、と言う「初心者向け)、「ステップ」(およその知識は持っている中級者向け)、「ジャンプ」(ジェンダー研究の最新動向もおおむね理解している上級者向け)、の3段階の回答が用意されている。読みやすさと専門性を兼ね備えた上手い構成だ。私は自己判定で「中級者」だけれど、「ジャンプ」も興味深く読んだ。それによって、一段深い理解が必要なのだと分かったことも多い。

 答えが難しいと感じた「問い」も多い。例えば「フェミニストはなにかと女性差別というけど、伝統や文化も重んじるべきじゃない?」という問い。重んじられるべき「伝統」や「文化」はあるが、近代以降に創造されたものもあり決して絶対的なものではなく、女性差別を正当化できない、と一旦は答えが出る。しかしでは、もっと長く続く例えば千年続く伝統は?他の民族の伝統は?と思考を広げると簡単ではない。

 本書では、他の民族の伝統への批判には抑制的な意見で、逆に問題点を指摘している。そこには明確な答えはない。監修者の佐藤教授の言葉を拾うと、本書は「グッド・アンサー」であって「ベスト・アンサー」ではない。さらに議論を積み重ねることが大事なようだ。本書はその議論の基盤になるだろう。

 人気ブログランキング「本・読書」ページへ
 にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
 (たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です