クジラアタマの王様

著 者:伊坂幸太郎
出版社:NHK出版
出版日:2019年7月5日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「伊坂幸太郎の本を読む」という期待にキッチリ応えてくれた本。

 主人公は岸君。大手のお菓子メーカーの宣伝広報部員。妊娠中の妻と二人で暮らしている。この前まで「お客様サポート」に居て、そこでの苦情対応は高く評価されている。物語は,岸君の会社の新商品のマシュマロに対する苦情電話から動き出す。「マシュマロに画鋲が入っていた」という。

 岸君の後任のお客様サポート係が、この苦情への対応を失敗する。棒読みの謝罪の言葉、「はいはい」というバカにしたような返事、相手の主張に反論して、挙句にもう1回「はいはい」とあしらってしまった。当の後任は「投了」と言って会社を休んでしまい、岸君がその対応力を見込まれて、お客様サポートに復帰して事後処理にあたることになった..。

 本書には珍しい特徴がある。エピソードが切り替わるタイミングで十数カ所、コマ割りされたマンガが数ページ挟まっている。マンガは冒頭にもあって「ロールプレイングゲームの主人公が旅立つ」風の様子が描かれている。途中に差し挟まれているのには、その主人公が大きな獣と闘っている様子も。

 小説が苦手とする(と著者が思っている)アクションシーンを、絵やコミックで表現して挟み込む。これは著者が10年ほど前から考えていたことだそうだ。とはいえ、文章で表現された物語と挟み込まれたマンガの関連が、最初はさっぱり分からない。ある時「そういうことか!」と分かる。さらに進むと「胡蝶の夢」という言葉を思い出した。これはけっこう効果的な趣向だった。

 帯に「伊坂幸太郎の神髄がここに」とある。ちょっと誇大かなと思うけれど、言いたいことは分かる。ごく平凡に善良な人間が巻き込まれてヒーローに。立ち向かう相手は、得体のしれない巨大なシステム。ちょっと現実から遊離したような設定。技巧的なことを言えば伏線と回収、気の利いたセリフ。こういうのは伊坂さんの「スタイル」だ。私はこういうのが大好きだ。

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