命に国境はない 紛争地イラクで考える戦争と平和

著 者:高遠菜穂子
出版社:岩波書店
出版日:2019年6月5日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

私は何も知らなかったんだ、と思った本。

著者は、イラクでエイドワーカーとして人道支援の活動をしている高遠菜穂子さん。30代より上の世代には、2004年に起きた「イラク日本人人質事件」で、人質として拘束された女性、と言えば、多くの人が思い出すだろう。今も変わらずイラクで平和のために活動していらっしゃる。

本書は、その著者が、2003年のイラク戦争勃発から現在に至るまでのイラクの現状と、自身の人道支援の取り組みを記したもの。現地に身を置いて、あるいは現地から日本を見て、自身の目と耳で得たこと。それは、私たちが(少なくとも私が)知っていることと、まったく違うことだった。

例えば、イラク戦争は正規軍の戦いが終結した後にも、「武装勢力」と米軍の戦いが長く続いた。ではその「武装勢力」とはどういった人々なのか?イラク軍の残党?地方の軍閥?アルカイダ?そういう人もいただろう。しかし「米軍に殺害された市民の遺族」が、抵抗勢力となったものが数多いのだ。(著者を拘束した武装集団もそうだった)

では、遺族はどうやって生み出されたのか?私の認識では「巻き添え」だ。米軍が言うような「戦闘員だけを標的にしている」という言葉は信じていないけれど、「多少の犠牲は仕方ない」という大雑把な攻撃をして市民にも多くの犠牲が出ている、と思っていた。

ところが例えば、ファルージャではこんなことが起きた。米軍は小学校を占拠。「子どもたちが勉強できないから返せ」と200人ぐらいがデモ行進。米軍はなんと銃撃して20人ぐらいが死亡。こんなことが繰り返されて、米軍側にも犠牲者が出るに至って、米軍は街を封鎖して総攻撃を行う。14歳以上の男性は戦闘年齢にあたるとして街から出ることを許さずに。「虐殺」だ。「巻き添え」なんかではない。

最後に日本について。上に書いたような出来事が進行する最中に、米軍を支援する日本の陸上自衛隊がサマワに派遣される。「人道復興支援」といいながら軍服を着ている。米軍の兵站も担う。当然だけれど「自衛隊」なんて言葉はアラビア語にはない。「日本」がイラク国民からどう見えたか?今もどう見られているか?私たちは「知らなかった」では済まない。「国民として責任がある」なんていう間接的なことではなくて、このままでは私たちが危険だ言う意味で。

本書は、わずか87ページ、わずか620円(+税)。それで大事なことを知ることができる。

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