祝祭と予感

書影

著 者:恩田陸
出版社:幻冬舎
出版日:2019年10月1日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 優れた小説の豊かな物語世界が楽しめた本。

 2016年下半期の直木賞受賞作「蜜蜂と遠雷」のスピンオフ作品。

 6編の短編を収録。本編の主人公たちだけでなく脇役の物語もある。個性豊かな登場人物が多く競い合った作品ならではのスピンオフ。1つずつの背後に豊かな物語の存在を感じさせる。

 「祝祭と掃苔」は、本編のコンテスタントの栄伝亜夜とマサルが、二人が教えてもらったピアノ教室の綿貫先生の墓参りに行く。風間塵も付いてくる。「獅子と芍薬」は、本編のコンクールで審査員を務めていた、ナサニエルと嵯峨三枝子の出会いとその後。「袈裟と鞦韆」は、本編のコンクールの課題曲「春と修羅」の作曲者の菱沼忠明が主人公。「春と修羅」作曲にまつわるエピソード。

 「竪琴と葦笛」は、中学生だったマサルがジュリアード音楽院のオーディションでナサニエルと出会う。そこから二人が師弟になるまでを描く。「鈴蘭と階段」は、本編で亜夜の先輩でコンクールの付き添いでもあった浜崎奏が主人公。伴侶ともいえるヴィオラと出会う。「伝説と予感」は、塵の師匠で本編では既に亡くなっていた巨匠のホフマンの物語。塵との偶然の出会いを描く。強いて言えば、この物語が本編に直接つながる。

 「祝祭と掃苔」と「鈴蘭と階段」が後日譚で、その他は前日譚。繰り返しになるけれど、どの短編にも豊かな物語の存在を感じる。それを削いで削いで芯を残したようなシャープさがある。私は特に、「鈴蘭と階段」の奏のエピソードに震えるような感動を覚えたし、「獅子と芍薬」のナサニエルと三枝子の物語をもっともっと読みたいと思った。三人とも本編では重要な役どころながら脇役だったことを考えれば、著者の生み出した人物たちは、なんと躍動的で多彩なことだろうと思う。

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