女帝 小池百合子

著 者:石井妙子
出版社:文藝春秋
出版日:2020年5月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

「経歴詐称は重大なことだけれど、そんなこともかすむ」と聞いて読んでみたら本当にそうだった本。

東京都知事の小池百合子さんの半生を追ったノンフィクション。著者は2018年の文藝春秋に「虚飾の履歴書」という記事を載せて、小池氏の「カイロ大を首席で卒業」という経歴に切り込んでいる。本書の幹の部分はこの経歴疑惑だけれど、根の部分にあたる「幼少期からエジプト時代」、幹から伸びる枝の部分にあたる「キャスターから政治家へ」を加えることで、小池氏の全体像が明瞭な輪郭をもって浮かび上がっている。

本書には小池氏のネガティブ情報が満載だ。「芦屋令嬢」の住まいが阪急電車の線路わきにあったこと。政治家のタニマチを自称する父が大言壮語の末に身上をつぶしてしまったこと。細川護熙、小泉純一郎、 小沢一郎と時の権力者に近寄って自身の地位を固めたこと。頼ってきた人たちへのたくさんの裏切り..。

「カイロ大を首席で卒業」について言えば、小池氏が証拠として提示した「卒業証書」に、成績が「5段階の3番目」と記されている。この卒業証書が仮に真正なものだとしても「首席」ではありえない。文藝春秋の記事が出た後に、都議会でこのことを問われた小池氏は「教授にいい成績だったといわれて嬉しくなって書いた、ということだと思います」と答えている。

まぁネガティブ情報については、誰でも探せば見つかるだろうし、一方からの見方でしかないかもしれない。カイロ大卒業の経歴疑惑も「些細な事」だと片付けることもできるかもしれない。ただ、カイロ大卒業をめぐる小池氏の言動には、彼女の人間性が見える。この人間性はその他の出来事にも通じる。

それは「ウソをつくこと」と「他人を尊重しないこと」だ。ウソは本人にしてみれば、他人を楽しませようとしてついた小さなウソかもしれない。「教授がいい成績だったと言った」を「首席で卒業」と言い換えるウソ。本当だったらいいのに(面白いのに)を、本当のように言ってしまう。この手のウソの例が、本書にはたくさん載っている。

「他人を尊重しない」は、「5段階の3番目」の卒業証書を示しながら「首席」と言い張ることで感じた。「5段階の3番目」だと分からないぐらいの語学力なんじゃないの?という指摘もある。そうであったとしても疑惑に答える証拠なのだから、普通なら何が書いてあるのか確かめるだろう。つまり「どうせ分かりっこない」「分かったとしても大したことない」と軽く見ているのだ。「どうせ大したことない」の例もたくさん載っている。

さて「ウソをつく」「他人を尊重しない」人を、また都知事に選んでいいの?国政に戻る気も満々で、一時は「初の女性首相候補」と言われていたけれど、そんなことに現実味を加えるようなことがあっていいの?

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