地球外生物学

著 者:倉谷滋
出版社:工作舎
出版日:2019年11月20日 初版
評 価:☆☆☆(説明)

 「なんなんだこの本は?」と思いながら、最後まで読んでしまった本。

 著者は現在理化学研究所の主任研究員。研究テーマは「脊椎動物筋骨格系の進化」などで、生物の体の形態や基本構造(ボディープラン)を研究する進化発生生物学の研究者だ。その著者が持てる知識を動員して、SF映画に登場する「地球外生物」を生物学的に分析して見せる。妥協なしで。

 例えば映画「エイリアン」のエイリアンについて。こんな感じ。

 エイリアンについてもう一つ問題にしたいことがある。すなわち、発生途上のクモの胚か、何かのカニを思わせるようなフェイスハガーの節足動物的なボディプランについてである。一方で胞子体であるところの最終形態エイリアンは、直立二足歩行の脊椎動物的形態を持っている。そこが問題なのである。

 第1作の監督のリドリー・スコット監督らが、このクリーチャー創造の際に、生物学的な観点をどこまで取り入れていたかは明らかでない。エイリアンの複雑な形態変化を考えると、何かしら参考にした生物がありそうだけれど、仮にそういったことが一切なくても、著者の考察は緩まない。同じようにしてウルトラQのケムール人やガラモン、ウルトラマンのバルタン星人なども俎上にのる。

 正直に言って、何の役に立つのかは分からない。架空の生物の登場シーンから得られる情報を基に、生物学的な考察をして何の益があるのか?例えば「セブンのアイスラッガーで切断されたクール星人の頭部の断面が、筋肉組織のように見え、神経繊維の束があるようには見えない」と言って「彼らの脳は思いのほか小型なのかもしれない」と推理して、何がどうなるものでもない。

 それでも本書に惹きつけるものがある。それは著者の「生物学の知識」と「架空の生物への造詣の深さ」によるのだろう。前者は著者の専門分野であるからもちろんだけれど、後者についても「量的」にも圧倒的だ。巻末に本書で触れた映像作品や文学などの索引が付いているのだけれど、その数が180を超えている。

 その量が熱量を生んで読者を惹きつける引力となっている。架空の生物に何の興味もないとか、役に立つものにしか価値がないとか、そう思っている人には、存在意義のない本だけれど..。私は最後まで楽しく読んだ。

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