未来のルーシー

書影

著 者:中沢新一 山極寿一
出版社:青土社
出版日:2020年3月15日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「これは手に負えない」と何度も思いながら、何かに惹かれて最後まで読んだ本。

 人類学者の中沢新一さんと霊長類学者で京都大学総長の山極寿一さんの対談。中沢さんは、著者紹介に人類学者と書いてあったからそう紹介したけれど、哲学・宗教・民俗学・サブカルチャーと、その活躍分野はとても広い。山極さんは、その「ゴリラの社会を知ることによって、人間のことをよく知る」という視点が、私はとても好きで著書もいくつか読んだ。

 対談は、どちらかと言うと中沢さんのリードで進む。例えば中沢さんが「狩猟採集時代までは、自然と人間のエネルギー総量は一定であったけれど、農業が発生すると余剰が発生するようになった。その再分配システムの構築が社会構造を変化させ、王を出現させた」と話題を提供する。それを受けて山極さんが「まったくその通りだと思います」と言って、類人猿と人間の食物分配の違いについて話し出す、といった具合。

 こうやって言葉のキャッチボールを続けて、時間的には、狩猟採集の縄文時代から、現代のシェアリング文化まで、分野的には、哲学、宗教、人類学、社会学と幅広く語り合っている。

 博覧強記とはこのことだ。現代の知性を代表するようなお二人を評価するのもおこがましい。一方が取り上げた誰かの著書の言葉を、もう一方もその著書を読んでいるらしくて、必ず受け止める。告白すると、博覧すぎて8割ぐらいの話題が、私には消化できなかった。もちろんおっしゃっている言葉は理解できるけれど、全然頭に入ってこない。

 それでも、乾いた土に養分のある水が染み込むような、滋養を感じながら読み終えた。この土からいつか芽が出るかもしれない。出ないかもしれない。

 最後に。山極さんの「おわりに」に「京大生であれば、だれでも一度は西田(幾多郎)の著書を手に取ったことがあるはずだ」とある。これは言い過ぎだと思うけれど、京都の有名な観光地の「哲学の道」の名前が、哲学者の西田幾多郎に由来していることを知っている京大生は多いだろう。

 山極さんの先生の先生で、日本の霊長類研究の創始者として知られる、京都大学の名誉教授の今西錦司先生が、西田幾多郎の著作を熱心に読んで、その思想に大きく影響されたそうだ。霊長類の研究と哲学の融合に、学問の深淵を見た思いがしたし、京都という土地に受け継がれる知の系脈を強く感じた。

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