きみのまちに未来はあるか?

著 者:除本理史、佐無田光
出版社:岩波書店
出版日:2020年3月19日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 「未来はあるか?」と問いかけて、「その未来はあなたがつくる」と呼びかける本。

 地域づくりについて事例を交えて考察する。まず「地域」を取り巻く現状を俯瞰する。国全体は借金が膨らみ、産業は空洞化、そして高齢化が進む。地域(地方)に目を転じると、「消滅可能性都市」として全国の多くの市町村で存続が危ぶまれる。一方、若い人たちの間では「ローカル志向」「田園回帰」などと呼ばれるトレンドも注目されている。

 トレンドは追い風ながら、都市の消費者は「手っとり早い消費」を志向していて、過度の観光地化や不動産開発などの弊害もある。そのような弊害を招かないよう注意しながら、住民間のつながり、土地、自然、まちなみ、景観、伝統・文化などの地域の「根っこ」を意識した地域づくりを提案する。

 「根っこ」を意識した地域づくりの事例として「福島県飯館村」「熊本県水俣市」「石川県金沢市」「石川県奥能登」の4つを挙げる。飯館村は1980~90年代の住民組織の活動。水俣市は水俣病を捉えなおした1990年代の「もやい直し」の運動。金沢市は1960年代から近年まで続く断続的な街づくり。奥能登は2000年代からの里山里海と人材育成をテーマとした活動。

 「意外」というか「面食らった」というか。理由は2つ。ひとつは事例の選定の問題。飯館村は活動で得た多くのものを原発事故で失ってしまっている。水俣市は水俣病という重い負の遺産を抱えた街だ。金沢市は、何度も行ったことがあるけれど、地方の町から出かけていくと繁栄した大都市に見える。一見すると、地域づくりがテーマになるような街の参考にいいのは、奥能登の取り組みぐらいではないか?と思った。

 ふたつめ。本書は「岩波ジュニア新書」の一冊で、私としては「未来はあるか?」という刺激的な問いかけをして、小中学生に何を伝えるのか?という興味を持ったので読んでみた。小中学生を侮ってはいけないけれど、相当の前提知識がないと伝えたいことが伝わらないと思う。繰り返すけれど、小中学生を侮ってはいけないとしてもだ。

 「意外」ではあったけれど、私自身には気づきもあった。それは「多就業スタイルの生活」。奥能登に移住してきた人の例が載っている。漁師の収入だけでは足りないけれど、キャンプ場の管理人や観光協会の事務局や、ダイビングのコーディネートや民宿の手伝いをして補っている。それで「のんびり自然にあわせて暮らし、農漁業が休みになる時期には、年に1回くらい海外旅行に行く」、そんな生活ができる。

 もちろん不安定さはある。でも休む間もなく1つの仕事だけをする、というのは「都市のスタイル」なんじゃないか。「地方には(暮らしていけるだけの収入を得る)仕事がないから」と言って、若者が都会に流れる。それはスタイルが合ってないからなのかもしれない、と思った。

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