常設展示室

著 者:原田マハ
出版社:新潮社
出版日:2018年11月20日 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 美術館に行きたい。気兼ねなく旅行をして絵画を見に美術館に行きたい。そう思った本。

 美術館の絵画にまつわる、人生の岐路に立つ人々を描いた6編の短編を収録。

 「群青」の主人公は美青。メトロポリタン美術館の教育部門のスタッフ。障害を持つ子供たちのためのワークショップを計画している。「デルフトの眺望」は大手ギャラリーの営業部長のなづきが主人公。転倒して入院した父との思い出や今の仕事について描く。「マドンナ」はなづきの部下のあおいが主人公。一人暮らしの母を置いて世界中を飛び回っている。

 「薔薇色の人生」の主人公はパスポート申請窓口の派遣社員の多恵子。窓口に来た銀髪の紳士に興味を持ってしまう。「豪奢」はIT起業家と密会を重ねる紗季が主人公。高額な美術品を買い漁るIT起業家とは、務めていたギャラリーで出会った。「道」の主人公は美術評論家の翠。芸術賞の審査会の最終審査の作品の一つに目が留まる。

 どの短編にも著名な絵画が登場する。ピカソの「盲人の食事」、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」「デルフトの眺望」、ラファエロの「大公の聖母」、ゴッホの「ばら」、マティスの「豪奢」、東山魁夷の「道」。世界各地の美術館の収蔵品で常設展示されている。

 この本を読んでよかった、と思った。どれも粒ぞろいの短編で、どれも人生とか家族とかに関わる機微を、シャープにしかし優しさをもって描いている。とりわけ私は「マドンナ」と「道」の2つの短編に感じ入ってしまった。身近にいる家族と、遠い昔に分かれた家族をそれぞれ描いているのだけれど、その家族との繋がりの接点に絵画がある。

 主人公には共通点がある。全員が女性。アート関係の職業が多い(5人)のは必然かも。他に5人が30~40歳代、5人が独身。「人生の岐路に立つ人々」とは帯にある言葉だけれど、女性のある年代には「岐路」が多いのかもしれない、と思った。

 私は読書と同じぐらい美術館に行くのも好きなのだけれど、企画展を見に行くことが多い。それに対して本書の絵画は、常設展示の美術館で見られている。収蔵館がその絵画の家だとすると、その方が「会いに来た」という感じがする。常設展もいいなと思ったら、国立西洋美術館の常設展示を、行けども行けども素晴らしい絵画が並んでいてクラクラしたことを、思い出した。

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