ひかりの剣

書影

著 者:海堂尊
出版社:文藝春秋
出版日:2008年8月10日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 海堂ワールドの登場人物はなんて魅力的なんだろう、と思った本。

 医療をテーマにしたミステリー・ヒューマンドラマが多い著者の作品の中で、本書は異色と言える。なぜなら本書は「剣道青年のスポーツ青春物語」だからだ。私は読んでいて何度か、誉田哲也さんの「武士道シリーズ」を思い浮かべた。

 主人公は速水晃一と清川吾郎。速水は東城大学医学部剣道部主将、清川は帝華大学医学部剣道部主将。それぞれ「東城大の猛虎」「帝華大の伏龍」と称される、豊かな剣の才能を持った医学生。

 二人は医学部剣道部の学校対抗戦「医鷲旗大会」の優勝を目指して鎬を削る。特に清川は昨年の大会で速水に敗れていて、それがこれまでの「医鷲旗大会」で唯一の黒星。その雪辱の思いは強い。

 いやいやこれはとても面白かった。剣の道をまっすぐに追及する速水と、才能はあるものの「努力の投資回収率」なんてことを考える清川。対称的な剣道への向き合い方の対比がリズムを生んでいる。そうは見えない人物がすごく強かったりする意外性も楽しい。

 意外性と言えば顧問の高階講師だ(何が意外かは後で)。彼は帝華大学から東城大学に移っていて、清川も速水も指導する。ついでに言えば、帝華大学が10年前に「医鷲旗」を獲得した時の「伝説の人物」であり「帝華大の阿修羅」と呼ばれている。

 本書も異色であっても「海堂ワールド」の作品で、他の物語と登場人物が共通している。速水は後に「チームバチスタ」や「極北ラプソディ」で救命救急医となり「ジェネラル・ルージュ」「将軍」と呼ばれる。「チームバチスタ」はこの物語の16年後、「極北ラプソディ」は約20年後のことだ。

 そして高階は「ブラックペアン」の三部作を経て、「チームバチスタ」では腹黒タヌキの病院長になっている。その病院長の過去がこんな剣士とは意外だった。...いや待てよ。よく考えたら本書の高階もやっぱり相当なタヌキっぷりだった。

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