極北ラプソディ

著 者:海堂尊
出版社:朝日新聞出版
出版日:2011年12月30日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 海堂尊さんの作品を幾つか読んできて、いよいよ「深みにはまったな」と思った本。

 「極北クレーマー」の続編。主人公は前作から引き続き外科医の今中良夫、舞台も同じで北海道の極北市。財政状況の悪い極北市は、前作の終わりに財政再建団体に指定されて財政破綻し、今中が勤める極北市民病院も厳しい運営を強いられることに。そこに「病院再建請負人」と呼ばれる世良雅志が颯爽と登場し院長に就任、というところが前作の最終盤。

 本書の物語はその7か月後から始まる。煌びやかなイメージで登場した世良は救世主ではなくて劇薬だった。救急患者は受け入れない、入院病棟は閉鎖、できるだけ投薬しない、という方針を打ち出し、看護師の90%を退職させた。その結果、極北市民病院は付着したぜい肉をそぎ落とした代わりに、信頼と活気を失っていた。

 極北市民は急病になって救急車を呼んでも、すぐ近くの極北市民病院ではなく、1時間かけて峠を越えた隣の雪見市の救命救急センターに搬送される。そのために助からなかった命もある。「それでも医者か」と、世良院長の方針はすこぶる評判が悪く、新聞社もネガティブキャンペーンを張りだす。

 物語は中盤から、今中先生が雪見市の救命救急センターに「レンタル移籍」して、救命救急センターが舞台となる。ここにはドクターヘリがあって、広域から患者を受け入れている。24時間。基本的に受け入れ要請を断らない。極北市民病院とは対照的な医療現場で、そこでの人間模様が描かれる。

 一見すると、極端な設定と登場人物の極端な言動で、現実離れしたコミカルな印象を受ける。しかし、実はよく練られたシリアスな物語が進行している。世良の方針も、実は合理的な将来性のあるものだと、徐々に明らかになる(現実離れはしているかもしれないけれど)。だからエンターテインメントとしても楽しめるし、地域医療について考えることもできる。

 海堂尊さんが描く物語群は一つの世界を描いていて「海堂ワールド」を形成し、登場人物が共通している。例えば、極北市民病院の院長の世良雅志は、「ブラックペアン1988」から続く3部作で主人公を務めている。雪見市の救命救急センターには「将軍」と呼ばれる速水医師が居て、彼は「チームバチスタ」シリーズの主要な登場人物。「あの時のことがここで語られている!」それなりに作品の数を読んできて、そういう楽しみ方が増えた。

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