人新世の「資本論」

書影

著 者:斎藤幸平
出版社:集英社
出版日:2020年9月12日 第1刷 11月10日 第3刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 冒頭の一言が「SDGsは「大衆のアヘン」である!」という挑発的な言葉で、その挑発に乗って読んでしまった本。

 この言葉を補足する。国連や各国政府が掲げる「SDGs(持続可能な開発目標)」に沿って行動しても気候変動は止められない。温暖化対策として人々がやっているレジ袋削減やマイボトルの持参などの「善意」は、それだけでは無意味に終わる。「やっている」と思い込むことで現実の危機から目を背けることになる。つらい現実の苦悩を和らげる麻薬のように、という含意。ちなみに「大衆のアヘン」はマルクスの言葉の引用だ。

 じゃぁどうすればいいの?ということになる。本書を乱暴にまとめると「気候危機を回避して地球が人が住み続けられるようにするためには「「脱成長コミュニズム」しか解がない」という主張をしている。コミュニズムとは共産主義のこと。対語として資本主義がよく使われる。日本は資本主義の社会で、資本主義=善、共産主義=悪、と捉える向きかある。「善と悪」が言い過ぎなら「明と暗」でもいい。

 もう少し世事に長けた人なら、こういう印象だけでなく「ソ連や東欧の共産圏の失敗を見れば、共産主義なんてうまく行かないのは明らかじゃないか」と言いそうだ(私もそう思った)。しかも著者は「マルクスを呼び起こそう」なんて言っている。私が経済学部の学生であった35年前でも、マルクスの思想を実用に供しようという考えは稀有だった。

 という反応は著者も十分に承知している。それでもなお「それしか解がない」と分かってもらうために、著者は新書にしては厚い約360ページの本を書いたのだ。(ちなみに、本書を読み終えるには、それなりの忍耐とオープンマインドな姿勢が必要だと思う。マルクスを持ち出したのがよかったのかどうか?今でも疑問だし。)

 読む前は「うまく行かないのは明らか」と私も思っていた。読んだ後は「著者の言うことはとても説得力がある。困難ではあっても、うまく行くかもしれない」と思った。世界にはその芽がすでに芽生えている。著者が紹介するそれらの芽に、よく似た事例は私の身近でも起きている。

 最後に。著者の主張は「脱成長コミュニズム」。「脱成長」の部分がとても大事。私が「うまく行くかもしれない」と思ったのも、「脱成長」に共感したから、という要素が大きい。ここでいう「成長」は「経済成長」のことで、多くの国の重要政策になっているけれど、「経済成長」が「豊かさ」をもたらさず、むしろ「欠乏」を招いている。そのカラクリは本書にも書いてある。それならば「成長」なんていらないではないか。私はそう思う。

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