著 者:伊与原新
出版社:新潮社
出版日:2020年10月15日 発行 2021年1月30日 3刷
評 価:☆☆☆(説明)
本屋大賞ノミネート作品。
平凡な暮らしの中にもドラマがあることと、それへの親しみを感じた本。
50ページほどの短編が5編収録された短編集。
5編を収録順に簡単に紹介。表題作「八月の銀の雪」の主人公は、就職活動中の大学生の男子。八月に入っても二次面接を突破したこともない。コンビニのアルバイトのベトナム人女性と知り合う。「海へ還る日」は、2歳の娘を育てるシングルマザーの女性が主人公。電車の中での窮地に手を差し伸べてくれた女性に博物館の展覧会に誘われる。
「アルノーと檸檬」は、不動産管理会社の契約社員の39歳の男性が主人公。立ち退きの交渉先の部屋で、迷い込んできたハトのことを知る。「玻璃を拾う」の主人公は、医療機器の販売代理店に勤める女性。SNSで褒めたアクセサリーの写真を巡るトラブルから思わぬ展開に。「十万年の西風」は、25年務めた原発の保守・点検を行う会社を辞めた男性が主人公。福島に向かう途中の海岸で凧を揚げる男性と出会う。
主人公に共通点は見当たらない。敢えて言えば「知り合いの知り合い」ぐらいにはいそうな平凡さが共通点。そういう平凡な人の一人ひとりにも、こうして読者が読んでしみじみと感じ入る物語がある。主人公の平凡さが親しみやすく心地よく感じる。
私が一番好きなのは「玻璃を拾う」だ。この物語は京都が舞台で、登場人物は大阪の人で会話が関西弁。私にとっては馴染みのある場所と言葉なのが好きな一因になっているのは確か。ただそれだけでなく、終盤に河原の場面で日差しとか空気までを感じた。未来につながる予感がする読後感もよかった。
それから著者にそういう意図があったかどうか分からないけれど、短編の並び方にもリズムがあるように思った。最初の2編。日々に疲れ気味の主人公の心がちょっと軽くなる物語で始まる「起」。「アルノーと檸檬」は少し軽快な感じで受ける「承」。「玻璃を拾う」で舞台を関西に移して若い男女を登場させて「転」。最後に「十万年の西風」は「原発」や「戦争」をテーマに据えたものでどっしりと「結」..ちょっとうがちすぎか?
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