天国旅行

著 者:三浦しをん
出版社:新潮社
出版日:2010年3月25日 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 決して楽しい物語ではないけれど、読書としては楽しめた本。

 「心中」を共通のテーマにした短編集で7編を収録。「心中」は「しんちゅう」ではなくて「しんじゅう」、念のため。

 様々な形で「心中」が描かれる。「森の奥」は、青木ヶ原樹海で自殺に失敗した男とそこで出会った男の道行。「遺言」は、これまでの人生で妻と3回心中の瀬戸際まで行った小説家の話。「初盆の客」は、主人公が祖母の初盆に現れた男性から聞いた祖母の過去と不思議。

 「君は夜」は、夢で別人として江戸時代に暮らす女性、夢の中で心中する。「炎」は、主人公の女子高校生が通学のバスで一緒になる男子生徒が焼身自殺する。「星くずドライブ」は、ひき逃げ事故で死んだ(らしい)彼女の霊と暮らす男子大学生の話。「SINK」は、子どものころに家族4人の一家心中で生き残った男性の話。

 「心中」をテーマした物語を読むのは「死」を渕からのぞき込むようなもので、どの作品にも緊迫した雰囲気を感じる。それでもその度合いには作品によって違いがある。例えば心中が既遂なのか未遂なのか?でも違ってくる。どの物語がそうとは言わないけれど「未遂」の中には、少しコミカルな印象を受けるものさえある。小説の中の出来事であっても「死ななくてよかった」と思った。

 印象に残ったのは「初盆の客」。主人公が祖母のウメさんの過去について聞くのだけれど、過去というのは戦時中の話。ウメさんが結婚してすぐに旦那さんは招集され、戦死して帰らぬ人となった。この話をした男性の父親が、ウメさんと戦死した旦那さんの間の子どもだという。男性の父親の出生には不思議なことがあって、その不思議はさらに別の不思議に..。こういう話は好きだ。

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