竜とそばかすの姫

著 者:細田守
出版社:角川書店
出版日:2021年6月25日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 映画の感動をもう一度味わうように読んだ本。

 主人公の名前はすず。高知県の仁淀川近くに住む女子高校生。父親と二人暮らし。小さいころに母親を亡くした。水泳の上級者だった母は、急に増水した川の中州に取り残された少女を救出に向かって、少女は助かったものの、母は帰らぬ人となってしまった。その時を境にすずは変わった。快活だった少女はいつも下を向いている子どもに、母とよく声を揃えて歌っていたのに、歌が歌えなくなってしまった。

 物語の舞台は、すずが住む街の他にもう一つある。それは「U」という名前の仮想世界。全世界のアカウント数50億を超える史上最大のインターネット空間。そこでは人々は「As」というアバターとして暮らす。「U」の世界でアナウンスがこだまする「現実はやり直せない。でも「U」ならやり直せる。さぁ、もうひとりのあなたを生きよう」

  アナウンスのとおり「U」の世界ですずは、やり直すことができた。もう一度歌えるようになった。それも絶世の美女の歌姫「ベル」として、圧倒的な人気を誇る。しかし「U」の世界でお尋ね者の「竜」と関わることで、立場を危うくすることになる。

 細田監督の作品らしい、家族や仲間の温かさを感じる物語だった。すずは現実の世界では冴えない女子高校生、「U」の世界ではヒロイン、という陰陽の二重性を持つ。これは他の「As」も同じで「もうひとりのあなた」はだいたい現実の姿とはかけ離れている。

 でも「すず」と「ベル」は、当たり前だけれど一つの人格だった。「竜」に関わったのも、その傷だらけの姿が放っておけなかったのだろう。この性格は母から受け継いだものかもしれない。冴えない女子高生の「すず」を支える人々もちゃんといて、その人たちは「ベル」も助けてくれる。

 細田監督の映画は、映画の公開と前後して小説も公開される。「ノベライズ」ではなくて原作小説という位置づけ。私はいつも映画を見てから小説を読む。まぁどちらが先でも構わないけれど、どちらも見て読んでされることをおススメする。映像では表現が難しい説明がある分、小説の方が作品を深く理解できる。本作に限って言えば、映画の圧倒的な音楽と映像美は、当然ながら小説では分からない。

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