テスカトリポカ

著 者:佐藤究
出版社:角川書店
出版日:2021年2月16日 初版発行
評 価:☆☆☆(説明)

 これが大衆文学の賞を受賞したわけで、だとすると「大衆」ってこういうのが好きな人が多いの?と思った本。

 2021年上半期の直木賞、および今年の山本周五郎賞受賞作。

 臓器売買の犯罪グループを描いたノワール(暗黒)小説。物語の舞台はメキシコから始まって川崎→メキシコ→ジャカルタ→川崎と移り変わっていく。多くの人物のエピソードを積み重ねてそれらが交錯して、一つの凶悪な犯罪の物語を構成していく。

 その多くの人物というのが、メキシコの麻薬カルテルのボスだとか、臓器を違法に摘出する闇医師だとか、態度を注意されて「ごちゃごちゃうるさい奴」を頭を叩きつけて殺してしまうカメラマンだとか、とにかく尋常ではない「悪人」ばかりがゾロゾロと登場する。

 その中にコシモという名の少年がいて、彼も13歳の時に父親を頭を天井に叩きつけて殺すという、とんでもない経歴がある。しかしこれには、父親がコシモを牛刀で刺し殺そうとしていた、という訳があった。また彼はネグレクトを受け学校にも行っていない。なぜか屈強な体を得た無知・純真な心の持ち主。この少年が物語の軸の一つになって、その成長で時間の経過が分かる。

 読んでいる間中ずっと眉をひそめていた。スリリングで飽きることなく最後まで読めるのだけど、残虐だったり倫理に反していたりするシーンが重ねられて「こんなのアリなのか?」と思った。フィクションなのだから、悪いことだって殺人だって起きてもいいのだけれど、あまり続くので露悪趣味のように感じた。ノワール小説とはそういうものなのかもしれないけれど。

 そうそう。タイトルの「テスカトリポカ」はアステカ神話の神で、本書の随所にもアステカ文明や神話の記述が登場する。私が倫理に反すると思ったものの中には、アステカの儀式につながるものもある。そこは現代日本の価値観で判断すべきでないのかもしれない。でもねぇ...。

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