黒牢城

著 者:米澤穂信
出版社:角川書店
出版日:2021年6月2日 初版 11月25日 3版 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 戦国武将を描くのに、こういうやり方もあるのか、と思った本。

 2021年下半期の直木賞、2021年の山田風太郎賞受賞、4大ミステリーランキングで第1位、 本屋大賞第9位。

 時代は戦国時代、主人公は摂津国の有岡城の城主、荒木村重。村重は織田方で信長の信を得ていた武将であったが、敵対する大坂本願寺に与して謀反を起こす。やがて幾万の織田勢に取り囲まれるであろう有岡城に籠った。その有岡城に秀吉からの使者として黒田官兵衛が来る。村重は官兵衛を帰さず土牢に捕らえた。物語はこんな状況から始まる。

 この状況説明で明らかなように、本書はいわゆる「戦国モノ」。主人公の荒木村重は知名度がやや劣るけれど、この織田への謀反と官兵衛の幽閉は、信長や秀吉の物語の中での1エピソードとしてよく知られている。そこにフォーカスを当てれば、戦国エンタテインメントに仕上がりそうだ。

 しかしそれだけではなかった。本書はミステリー、その中のアームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)の変形でもある。村重が籠る有岡城内で起きる不可解な事件、例えば「監視下にあった人質が殺された。矢傷があるのに矢がどこからも見つからない」という出来事の真相を探る。

 英明な村重をしても、その謎が解けない。自ら地下に降りて囚われの官兵衛に、事件の一部始終を聞かせる...。そう、安楽椅子に座る代わりに牢につながれた官兵衛が探偵役を務める。そんなことが何度か繰り返される。背景にはもう少し大きな物語も流れている。

 最初に村重が官兵衛に事件のことを聞かせるあたりで「そういえば」と思い出した本がある。同じ著者の「折れた竜骨」という作品。本書は「戦国モノと謎解きミステリー」のハイブリッドだけれど、その本は「ファンタジーと本格推理」のハイブリッドだった。「魔法あり」の世界で「密室殺人」を描く、というチャレンジングな試みが、見事に成功していた。

 その時のような驚きは本書では感じなかったし、正直言って「これが直木賞なのかなぁ?」と思ったし、ミステリーランキングを総ナメしたのには違和感があるけれど、少し変わった設定の謎解きは楽しめた。

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