著 者:今村翔吾
出版社:中央公論社
出版日:2022年3月25日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
真田家の深謀遠慮に恐れ入った本。
「塞王の盾」で直木賞受賞後の著者の第一作。
冬・夏2回の大坂の陣を、真田家と他の武将たちを主人公とした群像劇に仕立てた作品。描かれるのは、真田幸村、真田信之、徳川家康、伊達政宗、後藤又兵衛、毛利勝永、織田有楽斎...きら星のごとき面々。帯に「戦国万華鏡」とあるけれど、なかなか的を射た例えだと思う。
最初に描かれるのは家康。関ヶ原の合戦から11年後。徳川と豊臣の両家の緊張が高まる中、二条城で豊臣秀頼と対面し、その偉丈夫さを目にして「豊臣家を潰す」と心に決める。そして決戦を前に策を練り、豊臣に与力する武将を思案するに思い出したのが、紀州九度山に幽閉した真田昌幸。かつて二度も徳川を破った男。しかし昌幸は2年前に亡くなっていた。
そして、冬の陣で大坂城の南の出城「真田丸」で幸村と対峙する。幸村には戦場経験がほとんどない。家康は、幸村にはあんな見事な策は打てないと考え、「儂は誰と戦っているのだ(昌幸なのではないか)」と訝しむ。さらに夏の陣では、その幸村が徳川本陣にまで突撃してきて、己に向かって十文字槍を放つ。
とまぁここまでをわずか70ページで駆け抜ける。しかも、家康の昌幸に対する憎しみと嫉妬を混ぜたような複雑な感情を、奥深く描いている。
次は織田有楽斎、その次は南条元忠、その次は後藤又兵衛、伊達政宗...
と、主人公を変えて物語は続く。それぞれの過去から、人によっては幼少のころから描き始めて、大坂の陣でクライマックスを迎える。50~80ページぐらいで、「家康編」と同じように、物語の奥深い上にその疾走感がたまらない。
ちょっとしたミステリーとか、忍者の活躍とか、幸村の名の秘密とか、壮大な「真田家の戦」とは?とか、語りたいことはたくさんあるけれど、これは読者だけの特権に取っておきたい。
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