夜に星を放つ

著 者:窪美澄
出版社:文藝春秋社
出版日:2022年5月30日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 夜空の星を見上げるときの気持ちが伝わってくる本

 2022年上半期の直木賞受賞作。星の話が登場する5編の短編を収録した短編集。

 「真夜中のアボカド」は、32歳の女性が主人公。コロナ禍のリモートワーク中に、アボカドの水耕栽培と婚活アプリで恋人探しを始めた。アプリで知り合った男性と会うようになって..。「銀紙色のアンタレス」は、16歳の男子高校生が主人公。夏休みに祖母の家に行って、毎日、夏の海を満喫。そこに幼馴染の少女も来ることに...。

 「真珠星スピカ」は、中学1年生の女子生徒が主人公。2カ月前に母親が交通事故で亡くなったのだけれど、家の中では母親が見えて身振りでコミュニケーションもできる。「湿りの海」は、37歳の会社員が主人公。1年前に妻と3歳の娘が、妻の新しい恋人と住むために出て行った。マンションの隣の部屋にシングルマザーの母娘が引っ越してきた。

 「星の随(まにま)に」は、小学4年生の少年が主人公。2年生の時に父親がが再婚して新しいお母さんができて、この春には弟が生まれた。新しいお母さんは赤ちゃんの世話で大変なのに、自分のこともよく面倒を見てくれる。

 吹っ切れた感じがしたり、小さく息をついたり、フッと笑ったり、少しわだかまりが残ったり、がんばってねと思ったり、それぞれだけれど、どの話も悪くない読後感が残った。主人公が男性も女性もいて、小学生から37歳のバツイチ男性までと様々なのも、いろんな料理を少しずつ味わうように楽しめた。

 主人公は様々だけれど共通して描かれるものもあった。それは何かを抱えた女性たち。幼い子どもを育てる母親が何人か登場するけれど、それぞれに思うようにならない焦燥がある。大事な人を亡くして空疎を抱えている人もいる。また、様々な形の家庭を描いていることも、本書の特徴だと思う。

 直木賞というビッグタイトルの華々しさは感じない。でも「私の好きな一冊」に、たくさんの人がこの本を挙げる。そんな評価のされ方が似合う作品だと思う。

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