著 者:フランク・パヴロフ 訳:藤本一勇 メッセージ:高橋哲哉
出版社:大月書店
出版日:2003年12月8日 第1刷 2004年4月10日 第6刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
ネットで話題になっていたので読んでみた。30ページほどの絵本に、12ページの「メッセージ」が付いている。
主人公の「俺」は、友人から「愛犬を安楽死させなきゃならなかった」話を聞く。理由は「茶色の犬じゃなかったから」。この国では「茶色以外の犬、猫をとりのぞく」という法律が制定されたのだ。先月「俺」の白に黒のぶちの猫も始末された。その時は胸が痛んだが「あまり感傷的になっても仕方ない」と思い直した。茶色の猫を飼えばいいのだから。
しばらくすると「街の日常」という新聞が廃刊になった。例の法律を批判していた新聞だ。それでもみんな、いままでどおり自分の生活を続けている。「俺」は思った。「きっと心配性の俺がばかなんだ」。その次は図書館の本、その次は...。
「俺」は自らの破滅が身近に迫って、ようやく「抵抗すべきだったんだ」と気が付く。しかしすでに手遅れで、「俺」は「茶色の朝」を迎える。
巻末の「メッセージ」によると、ヨーロッパでは「茶色」はナチスを連想させる色らしい。もう、多くを言う必要はないだろう。「こんなのおかしい」という気持ちを、騙し騙しして「大したことじゃない」と、流れに任せてしまったら、その流れの行き着く先は「茶色の朝」しかない。
これも「メッセージ」によると、著者のフランク・パヴロフは、フランスで1990年代に、ジャン・マリー・ルペン率いる極右政党「国民戦線」の躍進に、危機感を覚えて本書を出版した。その後、多くの人が本書を読み「極右にノンを!」運動が盛り上がった。
寓話による例えは、人の心に浸透しやすい。「物語には力がある」と言いたいところだけれど、過度の期待は禁物だ。お気づきだと思うが、先般のフランス大統領選挙で、マクロン大統領と共に決選投票に残ったマリーヌ・ルペン候補は、ジャン・マリー・ルペンの娘で後継者だ。すぐに忘れてしまうのは日本人だけではないらしい。
さらに後ろ向きで恐縮だけれど、この絵本からメッセージを受け取るのは、元々極右思想に疑念を持っている人だけかもしれない。それでも本書を一人でも多くの人が目にするといいと思う。それが未来につながる希望。
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