チェーン・ピープル

著 者:三崎亜記
出版社:幻冬舎
出版日:2017年4月20日 第1刷発行
評 価:☆☆☆(説明)

 著者の作品を読むのは久しぶり。この前は2012年に読んだ「決起! コロヨシ!!2」で、それもそうっだったけれど、著者が描くのは「あり得ない」とは言えないけれど、明らかに「普通じゃない」少しズレた世界。本書にもそんな物語が6編収められている。

 本書は一人のルポライターが、各章ごとに一人、合計6人の人物にスポットを当てて取材し、その人生の軌跡を辿った、という体裁になっている。章の間の関連はそれほどなく、それぞれが独立したルポルタージュとして読める。

 2つ紹介する。表題作「チェーン・ピープル」は、チェーン店のように画一化された人々の物語。彼らは、言動や身のこなし、癖、考え方に至るまで「手引書」に沿うように自らを律して暮らしている。全国的に353人いる。彼らはどうして自らの個性を捨てることにしたのか?

 冒頭の「正義の味方」は異色作。スポットを当てたのは、わが国が「未確認巨大生物」に襲われた時に、どこからともなく現れて撃退してくれる「正義の味方」。国民もマスコミも当初は歓迎していた(だからこそ「正義の味方」と呼んだ)けれど、戦いが繰り返されるうちに論調が一変する。現れるタイミングが良すぎるじゃないか?とか、あいつが戦うことで被害が大きくなってる、とか。

 読み進めていくうちに共通点を感じた。この2作を含めて「視点の転換」が見え方を一変させる、ということ。「正義の味方」では顕著だけれど、ある視点からは「善」と見えても、別の視点からは「悪」に見える。もちろん「悪」に見えていたものが「善」に見え出す、ということもある。

 最後に。普通じゃない少しズレた世界は、ちょっと気味が悪い。でも、小説は所詮「作りもの」。現実離れすればするほど、物語との距離が保てるので「怖い」という感覚は薄まる。その点、最後に収録された「応援-「頑張れ!」の呪縛-」は、現実であってもおかしくなくてすごく怖い。

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