大人になると、なぜ1年が短くなるのか?

著 者:一川誠、池上彰
出版社:宝島社
出版日:2006年12月30日第1刷
評 価:☆☆(説明)

 著者2人は、それぞれ認知科学者と、元NHK記者のジャーナリスト。2人の対談をまとめて出版した形。

 認知科学者である一川誠氏は、山口大学の「時間学研究所」のメンバーである。「時間学」なる学問が確立されているとは思わないが、心理学や物理学から、文学、考古学、哲学といった様々な学問の学際的研究によって、時間に関する学問の価値創造を行っているらしい。この取り組みは面白いと思う。

 前半は、一川氏の専門である認知科学の面白い事例が紹介されていて、「へぇ」と思わせてくれる。人間は実は見たもののほとんどを覚えていない、とか。例えば、見知らぬ人に道を聞かれて、途中で道を聞いた人が入れ替わっても、半数以上の人は気付かない、といった実験。また、同時に光っても、動いている光点は実際より先に進んで見えてしまう「フラッシング効果」も興味深い。サッカーのオフサイドは、この錯覚のために正確な判定は難しいそうだ。

 後半になってタイトルの「大人になるとなぜ1年が短くなるのか」の話題になる。しかし、これに対しては、期待を満たすような回答はない。「子どものころは変化に満ちていて、運動会や遠足などイベントが多くて充実しているからではないか」などと、普通に思いつくようなことが言われているだけだ。これについての学問的検証もない。対談で出てきた話題の中で、ウケそうなものをタイトルにしただけではないのか?

 ただし、「大人になると…..」という話のくだりではないのだけれど、「1,2,と、カウントしないで自分で1分を測ることで、代謝の良い悪いが分かる」ということが紹介されていた。
 代謝が良いと実際より早く1分だと感じてしまう、悪いと遅く感じる。子どもの頃は代謝が良いので、自分は1分経ったと思っても45秒だったりするわけだ。これなら、子どもの頃は時間がゆっくり流れるように感じるはずで、この説明なら何とか学問的かもしれない。

 タイトルに対する明快な解や研究を期待すると裏切られてしまうが、時間に関する興味深い話を仕入れることはできる。

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