左京区桃栗坂上ル

書影

著 者:瀧羽麻子
出版社:小学館
出版日:2017年7月2日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 「左京区七夕通東入ル」」「左京区恋月橋渡ル」に続く「左京区」シリーズの5年ぶりの新作。

 シリーズのこれまでは、京都の大学を舞台とした学生たちの「恋バナ」で、「七夕通東入ル」ではおしゃれな女子学生の「花」が、「恋月橋渡ル」では不器用な理系学生の「山根」が主人公だった。本書も基本的に「恋バナ」なのだけど、描き方をちょっと変えてきた。

 本書の主人公は璃子と安藤の2人。「描き方を変えてきた」と言ったのは、物語を璃子が4歳の時から始めたからだ。大学生の「恋バナ」を描くのに4歳から..。転勤族の父の異動で、璃子は北海道から奈良に引っ越してきた。引越しの翌日に璃子がベランダから外の公園を見ると、ジャングルジムのてっぺんで手を振る女の子がいる。後に親友となる同い年の果菜で、安藤は果菜の兄だ。

 小学校4年の時に、またまた璃子の父の転勤で離ればなれに..そして再会。そして...という物語。璃子と果菜は親友とは言っても、離れて暮らしているから、関係もそれなりの距離がある。安藤はその兄だから、さらに距離がある。その距離がある関係をページ数を使って丹念に描く。後半に入ってもまだ「これ、誰と誰の恋バナなの?」という感じ。

 いい話だった。おだやかなラブストーリー。シリーズで登場人物は共通している。安藤は1作目から登場しているし、本書には花も山根も登場する。それで、シリーズを読み返すと分かるけれど、安藤クンらしい恋愛だった。

 著者はかつてインタビューで「安藤君は恋をするのかどうか……」なんて答えている。4歳から書き始めたのは、そんな安藤の恋愛を描くのに他にない方法だったと、読み終わって分かる。

 最後に。果菜が璃子に書いた自分の手紙を読んで、オチがないことに落胆するシーンがある。「これ、全然おもろないわ」と。分かる気がする、その気持ち。

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