著 者:キャロル・グラック
出版社:講談社
出版日:2019年8月1日 発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)
過去の戦争に関する国際間の衝突を緩和するスタートラインが見えた、と感じた本。
著者はコロンビア大学の教授。アメリカ人であるが、専門は「明治時代から現在までの日本の近現代史」。本書は、第二次世界大戦を各国の人がどのように記憶しているのか?をテーマにした講座における、多国籍の学生たちとの対話を収録したもの。
このテーマの端緒は、日本と中国・韓国の関係に顕著なように、75年近く前に終結した戦争の影響が、なぜこうも現在にネガティブな形で存在しているのか?という疑問だ。その答えの一つが、立場によってあの戦争の捉え方が一致しない、ということだ。
第二次世界大戦を、アメリカ人は、ドイツと日本の侵略に対抗した「良い戦争」と見る。日本人は、自国の指揮官によって悲惨な戦争に「巻き込まれた」と見る。韓国人は、日本による植民地搾取の極致と見る。中国人にとっては勇敢な抗日戦争、インドネシア人は戦後の独立へ続く出来事、と著者は考える。要するに自国に都合が良いように捉えて記憶している。
各国で、この「国ごとに異なる自国に都合が良い記憶」を、政治的に利用する「記憶の政治」が行われている。それによって国と国との間で、感情的な敵対心を生んでいる。これへの対応の一つは、他国の「記憶」を尊重しつつ、それぞれの「記憶」に「歴史」を付け加えること。この講座で行われているのは、そのための「対話」だ。
これは読むべき本だと思った。この本を読んで、まずは「自分たちは知らない」ことを認識するべきだ。それがよく分かる質問がある。「第二次世界大戦が始まった年は?」。(あくまで私の印象だけれど)日本人は終戦の年は知っていても、開戦の年は知らない人が多い。「知っている人」でも真珠湾攻撃の1941年と答える。日中戦争開始(1937年)や満州事変(1931年)と答える人は少ない。
日本と中国・韓国で、あの戦争の捉え方が違うことはあまりによく知られたことだ。だから衝突するのだと思っている。しかし「捉え方」以前の問題として、日本人は中国との戦争のことを知らなすぎる。もっと言うと興味もない。これでは意見がぶつかるばかりで、対話は成り立たない。
そして若者たちの頼もしさを感じた。講座に参加した学生の国籍は、日本、韓国、中国、アメリカ、カナダ、インドネシア。パールハーバーも広島・長崎も慰安婦も南京も俎上に上る。日本で悪名高い「反日教育」を受けた学生も含めて、彼らはちゃんと「対話」している。「対話のドアは常にオープンにしている」と言いながら、まともに話し合いができない政治家とは違う。
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