著 者:上橋菜穂子
出版社:偕成社
出版日:2006年12月初版2刷
評 価:☆☆☆☆(説明)
「守り人」シリーズがバルサの物語、「旅人」シリーズがチャグムの物語、という示唆が「蒼路の旅人」のあとがきでされていたが、本書はバルサの物語というわけではない。「精霊の守り人」以来7冊のシリーズに続く最終章の3部作の1冊目だ。
バルサとチャグムはもちろんのこと、タンダやシュガ、トロガイなどの主だった登場人物それぞれに、運命の岐路を迎えることになる物語の始まりだ。
まずは、「蒼路の旅人」の最後で夜の海に飛び込んだチャグムを捜すバルサの旅を中心にストーリーは展開する。
チャグムの消息は意外にあっさりと知れる。この後の物語を考えれば、ここで手間取るわけにはいかない、といったところか。しかし、ロタ王国の港町から、大領主の館、そして王宮と、チャグムの足取りはいつもバルサの数歩先に行ってしまって、なかなか追いつけない。
しかも、チャグムの、ロタと新ロゴ皇国の同盟という思いは次々と裏切られてしまう。それだけでなく、ロタ王国は内部に南北の対立を抱えており、そのあおりも受けて命も狙われている。
バルサの方も命の危険を冒しながら、チャグムの後を追い、遂にチャグムの危機に間一髪で間に合う。正直に言えば、お話なのだから「遂に間に合いませんでした」と終わってしまうはずがないことは分かっているのだけれど、「本当に良かった」と思わせるほどの迫真の展開だった。
それにしても、内紛はロタだけではなく、タルシュ帝国も2人の王子が相争い、新ヨゴも大勢はチャグムの味方ではない。しかも、タルシュの密偵がバルサを救出し、チャグムを守るのはロタ王の護衛だ。敵味方入り乱れた展開なのだが、登場人物のそれぞれの性格付けや描写が鮮明で、わかりにくくならない。著者の筆力によるものだろう。
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