著 者:永﨑研宣
出版社:樹書房
出版日:2019年9月10日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
やっぱり本からは得るものが大きいなぁ、と思った本。何度も読んで参考にしたい。
本書は、日本の文化に関する資料の中で、特に紙媒体で共有されてきた資料を、デジタルの世界で情報として流通させる、より端的に言えばWEBに公開することを考察したもの。「デジタルデータへの変換の考え方」から「利便性を高める工夫」「情報を長く維持するための留意事項」「可用性を高めるための国際標準」「実際の公開時のポイント」「評価の問題」まで、本来なら何冊かの本になりそうな情報がコンパクトに収められている。
実は、私は「デジタルアーカイブ」に仕事として携わっている。本誌にはとても有用な情報が多かった。その中で深く共感を覚えたことを紹介する。それは「デジタル社会に移した後、なるべく長持ちさせるには」という章。情報を長く維持するための留意事項がいくつか挙げられている。
まず何より「なるべく長持ちさせるには」という章を設けたこと自体に共感。公開時に最適と判断して採用した技術も、いずれは最適ではなくなる。感覚的で申し訳ないけれど、5年ぐらいで古くなり、10年経つと使えなくなってしまうものもある。「長持ちさせるには」をテーマとすることは、10年とかの経験があるか、あるいはそのようなレガシーなコンテンツを抱えて、困ったことがある人でなければ思いつかないと思う。
また「幅広い利用・活用」を「長持ちさせる」要素として挙げていることにも共感。予算や人材に限りがあることもあって「使ってもらう」「評価してもらう」ことは、長く続けるために欠かせない。そしてたくさんの人に使ってもらうためには「利用条件を明確にして分かりやすく提示する」こともとても重要だ。これも言われてみれば明らかなことかもしれないけれど、自分で思いつくのには経験が必要だと思う。
ちょっと「これに気がつくなんて大したものだ。私も知ってたけど」という偉そうな印象の論評になってしまったけれど、これは「共感を覚えた」部分のこと。目から鱗が落ちる思いをしたところは、もっとたくさんある。
その最たるものが「(日本の文化を)デジタル世界に伝える」というタイトル。これは例えば「デジタル化と公開」とかいうのでも無難で問題なかったと思う。でも違う。デジタル世界は、世界の人々と未来の人々につながっている。「公開」が目的ではなくて、その人々に日本の文化を「伝える」ことが目的。それを私も明確に意識できた。よかった。
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