口笛の上手な白雪姫

著 者:小川洋子
出版社:幻冬舎
出版日:2018年1月25日 第1刷 発行
評 価:☆☆☆(説明)

 こういう物語が私は好きなんだとはっきりわかった本。

 「何かが少しだけおかしい」日常を切り取った8編の短編を収録。「何かが少しだけおかしい」が「小川洋子さんらしい」と私は思っている。

 8編のタイトルは「先回りローバ」「亡き王女のための刺繍」「かわいそうなこと」「一つの歌を分け合う」「乳歯」「仮名の作家」「盲腸線の秘密」、そして表題作の「口笛の上手な白雪姫」。2015年から2017年にファッション誌や文芸誌に掲載された作品。

 2つだけ紹介。「一つの歌を分け合う」は、「レ・ミゼラブル」の観劇に来た男性の話。彼は11年前の高校生の頃にも、叔母さんと観に来たことがある。叔母さんの一人息子が亡くなってしばらくしたころのことで、突然「あの子がミュージカルに出ているの」と混乱した様子もなく言ってきた。

 表題作「口笛の上手な白雪姫」。主人公は公衆浴場にいる小母さん。営業中は脱衣用ロッカーが並ぶ壁面の角にいつもいる。公衆浴場の一部分のように。小母さんは、赤ん坊の面倒を見てくれる。母親がゆっくり一人で入浴できるように。その子に合わせて湿疹の薬も塗ったり、果汁や白湯を飲ませたりもする。

 「どうしてもっと早く、この便利な仕組みに気づかなかったのか」というようないいサービスなのだけれど、やっぱり「少しだけおかしい」。そもそも、小母さんがどうしてここにいるのか、誰もちゃんと説明できない。物語が進むにしたがって「おかしなこと」も増えていく。

 小川洋子さんらしい(と私が勝手に思っている)世界を堪能した。次はどんなおかしなことがあるのかな?と、楽しみにしながら読み始め、おかしなことに浸って読み終わる。すっきりしない宙ぶらりんな気持ちで終わってしまうのだけれど、それがいい。

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