著 者:柳広司
出版社:角川書店
出版日:2021年1月29日 初版発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
大学生の時に読んだ「人生論ノート」の三木清について、私は何も知らなかったなと思った本。
新聞広告に「累計130万部突破!ジョーカー・ゲーム」と書いてあり「おっ、ジョーカー・ゲームの新刊が出たのか!」と思って手に取った。それは私の勘違いだったのだけれど。
時代としては1929年から1945年、満州事変の少し前から太平洋戦争の終戦の年まで。クロサキという内務省の官僚が関わった事件を描いた4つの短編を収録。物語の背景には、1925年に成立した治安維持法がある。短編のそれぞれには、治安維持法の「被疑者(あるいは犠牲者)」となった文化人らが登場する。
その文化人らとは、「蟹工船」で知られる文学者の小林多喜二、川柳作家の鶴彬、中央公論社の編集者の和田喜太郎、哲学者の三木清。4人ともが実在の人物で、本書の中では必ずしも明らかにされてはいないけれど事実としては、はやり4人ともが治安維持法違反で勾留中に獄死している。本書は、その理不尽さ、時代の空気の危うさを、事実に基づくフィクションとして描く。
事実は凄惨なものだけれど、フィクションとすることで読みやすくなった。犠牲者本人でもクロサキでもない第三者の視点を使うことで、凄惨な事実からの距離が保てている。例えば第一編の小林多喜二の事件では、蟹工船での様子を多喜二に教える労働者2人組が主人公。乾いたユーモアもあって、結末は爽快感さえ感じる。
そんな感じでミステリ仕立ての読み物を楽しんでいたら深みにはまる。歩いていたら足元がヌルッとするので、よく見たら血溜まりに立っていた。そんな感じで気が付くとゾっとする。そう、これはゾっとしなくてはいけない物語なのだ。現在と地続きの時代に、日本人が起こした凄惨な事件について知るのだから。
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