著 者:恩田陸
出版社:集英社
出版日:2005年6月10日 第1刷
評 価:☆☆☆(説明)
これは、泣かせる本だった。実を言うと、いよいよクライマックスというところで、ちょっと気になった場面があって、一旦は気持ちが落ち着いてしまった。それにも関わらす、気がつけば涙。ふいに目から涙がこぼれた。
本書は、不思議な力を持つ「常野」の一族の人々や歴史を表した短編集「光の帝国」の続編、いや関連本と言った方が良いかもしれない。主人公というか、語り手は宮城県の山村に住む少女の峰子で、彼女は「常野」の者ではないので。
今は年を取って娘と孫と一緒に東京に住んでいる峰子が、少女時代を述懐する形で物語が綴られている。「蒲公英草紙」は、峰子が自分の日記に付けた名前だ。家の窓から見える丘に群れ咲くタンポポが、峰子の故郷の原風景なのだ。
物語の時代は、「新しい世紀を迎える」とあるから明治の中ごろか。峰子は、村の名前になっているほどの名家「槙村」の末娘の聡子のお話し相手としてお屋敷に上がる。そこには、様々な人が出入りし、中には長期に渡って逗留している人もいる。東京で洋画を学んだ画家、傷心の仏師、なんの役に立っているのかわからない発明家など。
そんな槙村の家を「常野」の春田の親子4人が訪れる。短編集「光の帝国」の「大きな引き出し」で登場した、人の記憶や思いを丸ごと「しまう」能力を持つあの一族だ。もちろん彼らの能力は、物語で重要な役割を担う。私は「彼らの能力はこうして使うのか」と得心した。
本書は、峰子の視点で槙村の人々を描き、「常に村のために」という「槙村の教え」を守った槙村家の悲話だ。そこに感動の、もっと言えば涙腺を刺激するツボがある。これだけでも本書の紹介として十分なのだが、蛇足と知りつつ、もう少し広い目で見て感じたことをいくつか述べる。
槙村は、水害に会いやすい土地らしい。現在でもそうだが、100年前ではなおのこと、自然災害の前には人々は無力だ。大きな水害に合うと、村が1つ壊滅してしまう。この時代はこんなにも人々の生活が危ういものだったのだ。未来を見ることのできる「遠目」の能力は、こんな時代には至宝とも言えるだろう。
しかし、その能力を以てしても時代のうねりには抗えない。語っている峰子の「今」は太平洋戦争の終戦の日なのだが、20世紀の前半分がどのような時代であったのかは知っての通り、戦乱の時代だ。「常野」の人々にはその予見はあったはずだが、どうしようもなかったのだ。
いや、そんな「時代のうねり」などという大げさなものを持ち出さなくても、「常野」の力が及ばないことがある。本書の悲劇もその1つだ。
にほんブログ村「恩田陸」ブログコミュニティへ
(恩田陸さんについてのブログ記事が集まっています。)
人気ブログランキング「本・読書」ページへ
にほんブログ村「書評・レビュー」ページへ
(たくさんの感想や書評のブログ記事が集まっています。)
『光の帝国』が良かったので気になりつつも、実はこっちは未読でした。
私も読んでみようと思います!!(>_<*)
前作の方、自分で紹介しておいてコメント未遂でしたが、良い巡り会いになったようで嬉しいです。
懐かしさ、暖かさが私の中では主な印象として残っていたのですが、
きれいな悲しさと郷愁は似ているからかもしれない…と思いました。
積み本を解消したら(汗)、前作の方も併せて再読してみます。
初めまして。あし@からお邪魔いてます。
レビューの的確さと、豊富さに驚いています。
私も時間を作って読んで見たいなと思ってます。
応援ポチ3!
蒲公英草紙―常野物語 (常野物語)
書評リンク – 蒲公英草紙―常野物語 (常野物語)
こんにちは!
YO-SHIさんは、あらすじをまとめるのが
ほんとに上手ですね。
私は、書くととりとめがなくなってしまって
むつかしいです。
これも、重く切ない話でしたね。
予見できても、あえて運命に逆らわない。
エゴを押し通さない。
そのあたりの大自然のような大きさと
強さを、常野のひとたちには感じます。
恩田陸「蒲公英草紙」
恩田陸の「蒲公英草紙」を読みました。
先日読んだ、光の帝国の続編。
読むのが止められなかった。
ひさしぶりに、本でこんなに泣きました。
以下、ネタバレあり。
昔の古きよき日本。
ある集落の中心のお屋敷の人々と
そこに通う少女を中心に、常野の人や
仏師、画家、政治家、この時代を
一生懸命生きてる。
切なかった。
ちょっと漫画の「花散る里」を思い出した。
大昔に読んだ、高梨純恵の。
それだけの価値のある国なのか。
環境破壊や、人種差別、戦争。
この問いは、国だけでなく
地球に置き換…
liquidfishさん、コメントありがとうございます。
liquidfishさんには、良い本を紹介していただいて感謝しています。
「郷愁」と「きれいな悲しさ」、ですか。
ちょっと話はズレるかもしれませんが、時間を遡って感じる「懐かしい」
は「悲しい」が混じっているように思います。もうそこへは戻れない、
のですから。
私は、故郷を遠く離れて暮らしていますが、いつでも帰れると思うと
強い郷愁を感じることはありません。でも、子どもの頃を思い出すこと
が最近は多くなったように思います。
—-
ニックスさん、コメントありがとうございます。
お時間のある時で結構ですから、ぜひ、1つ2つの記事を読んでみて
ください。良ければ、感想なども書いて下さるとうれしいです。
—-
まちぅさん、コメントありがとうございます。
この本は、レビューを書くのが難しかったです。すべての出来事が
終盤の事件のためにあるような作りなので、そこを書いてしまうと、
全部分かってしまうけれど、そこに触れないではいられないし。
「常野」の人々は、権力に近付かない、のでしたね。予見したことを
いたずらに活用してしまうと、権力から無縁ではいられないし..。
それより何より、運命を受け入れる心構えができているのでしょう。
コメント有難う御座いました
いろんなところに着目してらっしゃって、そうかそうか・・・。
と頷きながら読ませていただきました
私ももっと一つのことを掘り下げたものが書きたいと思うばかりです
きっと戦争の影がちらつくこの時代だったからこそのお話だったのでしょうね
蒲公英草紙―常野物語 (常野物語)
書評リンク – 蒲公英草紙―常野物語 (常野物語)
燕さん、コメントありがとうございました。
お返事が遅くて申し訳ありませんでした。
そうですね。戦争の影は、はっきりした形では
なかったかもしれませんが、たくさんの人が
感じていたのではないでしょうか?
コメントありがとうございました。
私の簡単な感想とは違って、ちゃんと本の紹介もされてるんですね。
なんだか恥ずかしくなってしまいました。
常野の他の物語も読んでみたいです。
YaYaさん、コメントありがとうございます。
常野の他の物語でしたら、「光の帝国」がオススメです。
というか、私はそれしか読んでないのですが。
短編集ですが、それぞれのお話が緩やかにつながっていて
素敵な本でしたよ。
こんばんは。コメントありがとうございました。
「常野」の力があるからといって万能なわけじゃ
ないんですよね。
力がなくても十分な悲話なのに、力があるためにそこに
いっそう思いの深さが加わって、「光の帝国」以上に涙して
しまいました。
その「運命」に涙する
{/book_mov/} 『蒲公英草紙―常野物語』 恩田 陸
{/dog_happy/}{/fuki_osusume/}
静かな静かな語り口に。穏やかな風に蒲公英の綿毛がふわりと舞い上がるような
淡い風景に。
それとは対照的に、世の中の、目に見えなくても身体の端々で感じてしまう重たい
空気に。
何もかもが切なくて切なくて。彼女の「運命」に、広くはその時代を生きる人々の
「運命」に、どうしようもなく胸が締め付けられるのだ。
『常野』シリーズ二作目。でもあんまり「常野」は意識しなかったように…
ちささん、コメントありがとうございました。
「力があるために思いの深さが加わる」..その通りですね。
聡子お嬢様は、自分の将来のことがどのくらい分かって
いたんだろうか?と思います。
分かっていて、槙村の人間としての行いを全うしたと思うと、
少女の心の内が痛いように感じられます。
恩田陸「蒲公英草紙」
恩田陸著 「蒲公英草紙」を読む。
このフレーズにシビれた。
いつの世も、新しいものは船の漕ぎだす海原に似ているように思います。
[巷の評判]読書のあしあと では,
「読んでみて、前作同様、優しく切ないテイストで綴られるおとぎ話に仕上がっていて、満足、満足。」
…….
蒲公英草紙
「遠耳」、「遠目」、「つむじ足」、「発火能力」、「飛行能力」など、常人には無い様々の能力を持った常野(とこの)一族を描いた「常野物語」シリーズのひとつ「蒲公英草紙」(恩田陸:集英社)。
主人公は中島峰子という少女。峰子は、地元の大地主槙村家の…….