著 者:石田衣良
出版社:小学館
出版日:2008年2月2日初版第1刷発行
評 価:☆☆(説明)
この本は、私にはあまり合わなかった。いや、つまらないわけではない。筋書きはシンプルながら、一点に収束していくようなテンポのいい展開が、ページを繰る手を止まらせない。小説を技法と内容に分けることができるとすれば、技法は良いと言える。
しかし、小説の評価を内容を抜きにしてすることはできない。私には、この小説に書いてある内容が合わない。「セックス、真実の愛、ドラッグ、自殺」。消耗しつくされた感がある言葉だが、本書の内容を表すキーワードだ。これに「不治の病」他が加われば、ケータイ小説の定番となるらしい。プロの人気作家である著者が、こんな本を書いたのは、ケータイ小説の流行をシニカルに意識してのことかと勘繰ってしまう。
実は本書は別の意味で「ケータイ小説」そのものだ。主人公たちは、ケータイの出会い系サイトで知り合い、その後も何十通ものメールのやり取りをする。タイトルはケータイのメールを親指で打つことから付けられたものだ。
主人公のスミオは、外資系投資銀行の社長を父に持ち有名大学に通う、何もかもを与えられた「勝ち組」、しかし希望がない。スミオが出会ったジュリアは、小さい頃から荒んだ生活を送り、今はパン工場で契約社員として働く。毎日立ちっぱなしでクリームパンを作り続けて年収200万。まぁ「負け組」の部類、しかし進学資金を貯めて大学に入ろうとしている。
こんな2人が出会えば、お互いの不足する部分を補い合って、明るい未来を描くこともできるだろうが、本書はそうはならない。第一章の前の扉で結末が明かされているので、読者もそんなことは期待しないで読むことになる。
スミオは、ただの金持ちの息子ではなく、心に深いキズを持っている。その分は割り引いて考えてやらなければならないが、それにしても行いが考えナシだ。家族や周囲のことを、いやジュリアのことも、自分のことさえちゃんと考えているのかどうかあやしいのだ。
そんなことより何より、出会い系で知り合った女の子と、セックスの相性が良かったというだけのことで、お互いに「なくてはならない人」になり、その挙句にこんなことになってしまうなんて..。やはり受け入れ難い。
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[E:happy01] 検索中にたどりつきました!
他の記事もゆっくり読みたくなりました。またきます
小林さん、コメントありがとうございます。
小林さんのブログ拝見しました。イラストレーター&マンガ家さん
なんですね。「美大デビュー」の発売おめでとうございます。
今度本屋さんで探してみますね。
以前に、MACでマンガを描くマンガ家さんのグループとお付き合いを
していたことがあります。
売れている方もそうでない方も、お忙しそうでしたが、朗らかな方
ばかりだったことを思い出しました。
本は読んでないんですが表紙の絵にとても惹かれます。(たしかアジカンのジャケットとかも書いてる人かな?)
読んでみたいという一方、セックス、真実の愛、ドラッグ、自殺等々の内容は好きじゃないので手を出しにくいです。
読んでもないのに失礼なんですが、こういったあらすじの本はセックスを「カリスマ的」な感じで書いているような気がするのですがどうでしょうか?
妹が持っていた某空を読んだせいで携帯小説とは全くの別物だと分かっていてもこういったジャンルの本は中々読む気になる事ができません;;
シャーパーさん、コメントありがとうございます。
この本を手に取った一番のきっかけは、この表紙のイラストです。
表紙と挿絵は中村佑介さんの作品。音楽には疎いもので、アジカンの
CDジャケットのことは知らなかったのですが、森見登美彦さんの
「夜は短し歩けよ乙女」の表紙の絵の人だと思いました。
えぇ、この本ではセックスは、性欲とは別の、2人の心をつなぐ特別な
行いのように描かれています。だからと言って、どこでもしていいと
いうわけじゃないと、言いたいですけどね。
「某空」とは、文章の完成度という点で大きな違いがあるし「某空」の
方がはるかにストーリーが乱暴だと思います。
しかし「某空」で感動できる人は本書でも感動するだろうし、そうで
ない人は本書もダメだろうとも思います。
親指の恋人
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こんにちは。あきれちゃったオバサンです。
コメありがとうございました。
書評の鉄人さまだとは、コメ残していただいて光栄です。
感動したって方が多いということですが、やっぱりこれって年齢が関係するんでしょうか?すれたオバサンにはさっぱりでした。
年取ると涙腺弱くなるって、あれウソなんでしょうか?[E:sad]
最近は映画も小説も泣かせりゃいいのか!という風潮で、はずれをひくと脱力します。
YO-SHIさんのブログを参考に、新規開拓にチャレンジしてみますね。
ちっちょりさん、コメントありがとうございます。
映画も小説も泣なかせりゃいいのか!って風潮は感じますね。
とくに、誰かが死んだら感動、と言うか、死を感動のための
スイッチのように使うものが多いのが気にいりません。
フィクションとは言え、第三者が「泣き」のために、他人の
「死」を鑑賞すると考えれば、ひどく不道徳な気もします。
(それでも、本を読んで泣くことがある自分にも呆れますが)
親指の恋人
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親指の恋人
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