著 者:原田マハ
出版社:幻冬舎
出版日:2021年5月25日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)
その景色をこの目で見るためにフランスに行きたい、と思った本。
原田マハさんのアートミステリー最新作。ファン・ゴッホの死にまつわる謎に迫る。
ファン・ゴッホの死については、晩年に住んでいたオーヴェール=シュル=オワーズの麦畑付近で拳銃で自殺を図った、とするのが定説。しかし目撃者はおらず確証もないので真実は分からない。その真実を求めて日本人のオークショニアが調査を進める。
主人公は高遠冴。37歳。パリのオークションハウス「キャビネ・ド・キュリオジテ(通称CDC)」に勤めている。パリ大学で美術史の修士号を取得、ファン・ゴッホとゴーギャンの研究者でもある。
物語は冴が勤めるCDCに、錆びついた一丁のリボルバーが持ち込まれたところから動き出す。オークションでは、リボルバーはコンディションのいいものしか値が付かない。そのリボルバーは出品できるようなものではない。しかし持ち込んだマダムは「あのリボルバーは、フィンセント・ファン・ゴッホを撃ち抜いたものです」と言った。
もし本当にそうと証明できれば、これはスゴイ値がつくことになる。CDCの名前も世界に広まる。冴は、事実を確かめるために、アムステルダムのファン・ゴッホ美術館に行き、オーヴェール=シュル=オワーズに行って関係者の話を聞き、フランス国立図書館で資料を渉猟して調査を進める。その過程で冴のもう一人の研究対象であるゴーギャンに行き当たる..。
これはとても面白かった。著者のアートミステリーにハズレなしだ。「ファン・ゴッホの死の真実」と言っても、描かれているのはもちろんフィクションなのだけれども、背景の様々なエピソードには事実が散りばめられている。例えば「ファン・ゴッホが自殺に用いたとされる拳銃」は、物語の中で言及されるとおりに、ファン・ゴッホ美術館の展覧会で本当に展示されている。
構成も面白かった。著者のアートミステリーでは、画家が生きた時代と現代との2つのパートの物語が並行して語られることが多いのだけれど、今回は少し違っていた。今回は、現代パートを主にして、過去のパートは「私が聞いた母の話」の中で「母が聞いた祖母の話」が語られる。千夜一夜物語のような入れ子構造になっている。この構造に時代を遡るタイムマシンのような効果を感じた。
もう一度。著者のアートミステリーにハズレなし。今回は大アタリで☆5つ。。
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