著 者:クリス・アンダーソン
出版社:NHK出版
出版日:2009年11月25日 第1刷発行 2010年1月10日 第5刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
「<無料>からお金を生み出す」といっても、錬金術まがいの怪しげな本ではない。「ラクして儲けよう」というお気楽な本でもない。念のため。
"There is no such thing as a free lunch."という言葉をご存知だろうか?普通に「タダのランチなんてものはない」と訳せばいいのだが、「タダのものには裏がある(から気をつけろ)」という格言でもあり、「タダのように見えてもどこかで対価を払っているのだ」という経済用語でもあるらしい。いずれにしても「Free(無料)」という価格には懐疑的な目が向けられている。
そして本書は、タイトルの通りこの「無料」を正面から考察したものだ。結論から言えば「無料」をベースにしたビジネスモデルが、極めて控えめに見積もって現在世界で3000億ドル、今後はさらに急拡大する、というのだ。もちろん「無料」がどんなに積み重なっても1ドルにもならない。そこには、経済用語としての上の英文が示すようなカラクリがある。
例えば「ゼロ円ケータイ」。本体は「無料」だけれど通信費等としてその費用を負担している。例えば「Google」。検索以外にもメール、ドキュメント、画像加工ソフトなど多くのサービスを「無料」で提供しているが、広告費やデータ提供で莫大な利益をあげている。例えば「ソフトの体験版」。機能や期限を制限したものを「無料」で提供し、有料版の購入を促すビジネスモデルだ。
どれも既にありふれたもので、今さら「カラクリ」なんて秘密めいた言い方をしなくても良いようなものだ。しかし本書には「音楽CDがタダになる」「大学の授業がタダになる」「航空料金がタダになる」「車がタダになる」..というコラムが未来予想ではなく実際の事例としていくつも載っている。こうなると「ありふれた」とは言えない。
また著者は、最後の「ソフトの体験版」モデルを「フリーミアム(Free、無料)+(Premium、割増)」と名付けて重要視している。実際、本書自体が発売に先立って、先着1万人に全編を無料公開するという実験がされている。現在(2010年3月14日11:00am)Amazonの本ランキング8位、実験の結果は上々だったようだ。
著者はこの「無料の経済」について「これまではキチンと研究されてこなかった」と言う。それは「無料」を伝統的な経済学が捉えられなかったからだ。本書でも言及されているダン・アリエリーの著書「予想どおりに不合理」で、「無料」が持つ力が実験で証明されているが、これには行動経済学という分野の成立まで待たなくてはならなかった。
また「ネットの発達で様相がガラリと変わっている」とも言う。著者は「ビット経済」と呼んでいるが、商品がデータ(ビット)化されると、再生産と流通のコストが事実上ゼロになる。従来型商品では無料サンプルもコストがかかるので配る数には制限があった。しかし「ビット商品」なら無制限に配布できる。
「ビット商品」には負の面もある。海賊版も無制限に配布できる、ということだ。これへの対抗策が本書のプロローグに載っている。コメディユニットのモンティ・パイソンのメンバーが、YOUTUBE上の大量の著作権侵害に打ち勝った方法だ。ここの部分だけでも「無料の経済」に今後の何か重要なヒントがあることが感じられて、続きが読みたくなる。もしかしたらこれも、「無料(立ち読み)」+「割増(本の購入)」という「フリーミアム」モデルなのかもしれない。
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新刊の時にネットで紹介を見て読んでみたいと思ってたんですが。。。
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【書評】FREE (2) (ブログDE読書会 to スマイルシグナルさん)
「ブログDE読書会」という試みに、スマイルシグナルさん発で取り組んでいるところ。
今回は第一弾の『FREE』に関する4つ目の記事に当たる。
一連の過去の記事から順に読んでいただけると分かりやすいと思うので、お読みになっていただいていない場合は是非。
(1) FREEを読…
ksk0204さん、コメントありがとうございます。
ご興味がおありなら、お読みになることをオススメしますよ。
絶対とは言いませんが、期待を裏切らないと思います。