著 者:高村薫
出版社:講談社
出版日:2003年1月24日 第1刷発行
評 価:☆☆☆☆(説明)
2ヶ月半前に読んだ同書の再読。いや、以前に読んだのは単行本で今回読んだのは文庫本なので、正確には再読とは言わないのかもしれない。普段こういう読み方はしないのだけれど、以前のレビューに「文庫版の方が面白かった」という声をいくつか頂いたので読んでみた次第。また、著者は改版や文庫化の際に大幅に改稿するそうで、それも確かめたかった。
そして...「文庫版の方が面白かった」。何人かの皆さんがおっしゃる通りに。改稿もハンパな量ではなかった。昭和51年の雪山と57年の病院での殺人事件、平成元年の強盗傷害事件、そして平成4年の連続殺人と、単行本と同じ事件が起きる。しかし、それを軸にして語られる数々のエピソードは、ある物は変更され、ある物は姿を消し、全く新しく加えられた物もある。大きな流れを変えるような改変もされている。
この改稿によって、どう面白くなったのか?言葉にするのは難しいのだけれど「物語が研ぎ澄まされた」と言えば伝わるだろうか?刃物を研ぐことで鋭さを増すように、数多くのエピソードを見直すことで、物語の輪郭が太く鮮明に浮かび上がってきた。
改稿の一例を挙げると、前半に連続殺人犯の視点のエピソードが増えた。これによって、連続殺人事件自体の謎解きの要素は小さくなった。しかしそれと引き換えに、昭和51年の雪山の事件の真相に焦点が絞られ、それに迫る現場の捜査官の緊迫がぐっと力強く伝わるようになった。
先日の記事で、本書がWOWOWでドラマ化されることをお伝えしたが、昨日(25日)その制作会見が開かれ、連続殺人犯の水沢裕之役として高良健吾さんが発表された。キャストをWEB上で1日に1人ずつ発表し、最後に水沢役を会見を開いて発表、という手の込んだ演出をしている。飛びぬけて個性的な登場人物でもある、水沢の描き方が楽しみなドラマとなりそうだ。
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03/02/23 高村薫の直木賞 『マークスの山』 その1
このほど改訂版が発刊された。
帯には「警察小説の金字塔」とある。まさに文字通りの傑作である。
マークスと名乗る二重人格の青年の狂気と仲間の秘密を共有しあった政・財・官・法曹界のエリートたちの狂気、二つの狂気が交錯する暗闘に警察組織が翻弄される。ほとんど手がかりがないまま進行する連続殺人事件の真相を追う合田刑事たちの地道な捜査活動、そこで繰り返される試行錯誤、警察という厳しく管理された組織とそこで生きる男たちの苦闘ぶりだけでなく、それぞれの個性、喜怒哀楽を活写する。
年がら年中顔を合……
03/02/23 高村薫の直木賞『マークスの山』 その2「10年後の印象」
実は1993年に初稿版を読んだときには直木賞受賞とはいえ、退屈だった記憶を除いて印象が薄い作品であった。
03/02/23 高村薫の直木賞『マークスの山』 その3「誰がバブルを告発できるか?」
日本の権力構造をとらえる高村薫の視点に関することである。
初稿を読んでもう10年近くもたつのかと、私自身この間の時の経過、その凝縮された濃度を実感する。
バブルという魔物に日本の全体構造は窒息状態に追いやられた。
その魔物の周囲で数多い不正義があった。
私の友人・知人の幾人かはその責めを問われ被告席に立たされた。
経済的制裁、社会的制裁をうけた友人・知人の数は知れない。…