獣の奏者 外伝 刹那

書影

著 者:上橋菜穂子
出版社:講談社
出版日:2010年9月3日第1刷 9月3日第2刷 発行
評 価:☆☆☆☆(説明)

 最初の2冊(闘蛇編、王獣編)の後、出ないと思われていた(私は出して欲しいと思っていたけれど)続編(探求編、完結編)が出て、さらに(amazonの商品紹介の言葉を借りると)まさかの外伝が登場。ということで、本書は、壮大なスケールを見せて幕を閉じた、ファンタジーの大河ドラマ「獣の奏者」で、登場人物たちの語られなかった秘話を収めたもの。
 王獣編と探求編の間にあたる時期の、エリンとイアルの恋物語をイアルの語りで書いた中編「刹那」、同じく中編で、カザルムの教導師長エサルが自ら語る十代のころの想いの「秘め事」、そしてエリンとイアルの束の間の安息を描いた掌編「初めての・・・」の3編。

 外伝にしてこの読み応え。他に良い言葉を思い付かなかったので「恋物語」などと書いたが、その言葉から想像される幸せな雰囲気は「刹那」にはない。神王国の機微に触れてしまった二人にとっては、文字通りの意味で「命を賭した恋」。それでも惹かれあってしまう様が悲しい「悲恋」。時に少年のようなナイーブさを見せるイアルをエリンの強い心が支える。しかし、最後の最後にエリンと息子を守るのはイアル。互いに必要としているのだ。
 「悲恋」と言えば、エサルが語る「秘め事」もそうだ。貴族の娘として決められた相手と結婚し、決められたように生きていくことに、どうしようもなく違和感を感じていた十代。学舎で出会ったジョウンとユアンという、2人の気が合う年上の青年との出会い..。

 参った。こんな激しい恋物語を読むことになるとは、本を開いた時には思いもしなかった。著者には失礼な話だけれど、途中で「有川浩さんの作品か?」と錯覚した。著者のあとがきによれば「自分の人生も半ばを過ぎたな、と感じる世代に向けた物語になった」そうだ。平均寿命から考えると、私も少し前に分折り返しを点を回ったことになる。どうりでエサルの昔語りが胸に痛いわけだ。

 コンプリート継続中!(単行本として出版された小説)
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3つのコメントが “獣の奏者 外伝 刹那”にありました

  1. ちきちき

    こんばんは。

    最初の2冊ですっかりこの世界の虜になったものの、
    よもや新しい本が読めるとは…ってのを2回も経験できた
    贅沢なシリーズとなりました。
    今回も濃厚な世界観にうっとり。
    これまでより、登場人物を身近に感じられた作品でした。

    有川浩さんの名前に思わず笑ってしまいました。確かに!

  2. ぼちぼち

    獣の奏者 外伝 刹那

    JUGEMテーマ:読書nbsp;
    シリーズ120万部の大河物語(ファンタジー)エリンの同棲時代、エサルの若き日の恋……、本編では明かされなかった空白の11年間が今ここに!ずっと心の中にあった、エリンとイアル、エサルの人生――彼女らが人として生きてきた日々を書き残したいという思いに突き動かされて書いた物語集です。――上橋菜穂子子どもから大人まで世代をこえて、コミック・アニメ化され表現をこえて、アジア・ヨーロッパへ国をこえて、かろやかに境界をとびこえていく、少女と獣が織りなす大傑作ファンタジ…

  3. YO-SHI

    ちきちきさん、コメントありがとうございました。

    よもやの続編、まさかの外伝、でファンにとっては2度のサプライズですね。
    2度あることは...と言いますが、3度目は期待しないで待ってましょう。

    有川さんを思った場面は色々あるんですが、一番は「……来るか」ですね。

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