著 者:池井戸潤
出版社:小学館
出版日:2010年11月29日 初版第1刷発行
評 価:☆☆☆☆☆(説明)
2011年上半期の直木賞受賞作品。今年の8月に早速WOWOWで三上博史さん主演でドラマになっている。
主人公は佃航平、43歳。7年前に父親の死に伴って、家業の精密部品の工場「佃製作所」を継いだ。それ以前には、佃は宇宙科学開発機構で、ロケットエンジン開発の研究者をしていた。本書の冒頭は、佃が開発したエンジンを積んだロケットの打ち上げシーンだ。
佃が社長を継いでから佃製作所は大きく成長した。売上百億円に少し欠けると言うから、並みの中小企業ではない。しかし、部品製造業の経営は取引先に大きく左右される。佃製作所も主要な納入先の方針変更によって、「わかってくれよ、佃ちゃん」と言われて、十億円を超える取引を停止されてしまう。
その後も佃の受難は続く、銀行の融資を打ち切られたり、ライバル社から特許侵害で訴えられたり。足元の社員や家族も盤石とは言えない。一つ乗り越えたら次の問題が持ち上がる。それでも佃には寄って立つものがあった。それは「技術」と「夢」だ。
「並みの中小企業ではない」のは、百億円近い売上だけではない。佃が寄って立つものの一つである「技術」がある。佃製作所は、水素エンジンのバルブシステムの特許を持っている。帝国重工という巨大企業が、巨額を投じて開発したシステムに先んじる最先端技術で、この技術がなければ帝国重工のロケットは飛ばない。起死回生の願ってもない話のようにも聞こえるが...ビジネスの世界は怖い。
佃が寄って立つもののもう一つの「夢」は、彼を支えるが、同時に彼を苦しめ、彼に決断を迫る。面白かった。ちょっと甘めだけれど☆5つ。
このあとは書評ではなく、ちょっと思ったことを書いています。お付き合いいただける方はどうぞ。
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どうこう言うほどのことでもないのですが...。 登場人物たちの年齢が気になりました。主人公の佃は私よりも5歳若い。ライバル会社のマネージャーも、訴訟で代理人として立てた双方の弁護士も、帝国重工の部長も、主なプレーヤーが全員「佃と同年代」なんです。著者の池井戸潤さんは私と同い年です。だから著者が自分と同年代をドラマの主役にした、というわけではないんです。
小説の登場人物が自分より年下なことなんて珍しくもありません。大半がそうだと言ってもいいでしょう。ただ、「企業を牽引するエンジンは、もう下の年代に移ってしまったのかなぁ」なんて思ったら、しみじみしてしまったんです。
大学生のころ、高校野球の球児たちが自分より年下だと、突然悟ったことがあります。彼らは「何かに打ち込む」象徴で、自分もいつかはそういうものを見つけて…なんて思っていたのに、追い越してしまった。その時の気持ちに似ています。
老人の繰り言のようになってしまいましたが、まだまだそんな歳ではもちろんありません。子どもはまだ中高生だし、年金の受給年齢は引き上げられそうだし(もらえるのかどうかさえ怪しい)、よほど幸運なことがなければ、まだまだ働かなくてはならないし、しみじみしてる場合じゃないんですけどね。
はじめまして。私も下町ロケット読みました。一気に読めるおもしろさでした、少しだらだらした部分もありましたが、それも含めて読みやすかったです。複線の別れた奥さん側のストーリーもあると面白そうと感じました。
本の鳥さん、はじめまして、コメントありがとうございます。
別れた奥さんは、この話のキーマンですよね。彼女がいなければこの物語はなかった。
佃は、周囲に人に恵まれた経営者でしたが、彼を一番(見方によっては本人以上に)
理解していたのは別れた奥さんだったと思います。
別れた奥さんのストーリーは面白そうです。さらに、佃と奥さんの出会いから
別離までの「下町ロケット前日譚」も読んでみたいです。
少々、ストーリがうまくいきすぎな気がした。
まず訴訟。それがいいがかり的な訴訟で、それをきっかけに逆に訴えて50億の金額をえることが
可能か?
さらに、特許使用料だけではなく、部品提供にこだわり、それが成功する。
巨大企業を悪として描き、中小企業は善として描く。
そしておいつめられても正義は最後は勝つという少々まとまりすぎた感じがうけた。
所詮は小説のフィクションで、アメリカ映画的な「勧善懲悪」と、企業戦士のまどろっこしい、
上下関係がつけくわえた作品と感じたがどうだろうか。
か さん、コメントありがとうございます。
なかなか手厳しいですね。
いろいろあっても結局は主人公の思い通りになってしまうわけで、
「こんなにうまく行くはずがない」というご指摘かと思います。
私は、「行くはずがない」とも「あり得る」とも判断がつきません。
ただ、小説に厳密なリアリティを求めてはいないので、多少都合が
よくても、ワクワクさせてくれた方が楽しめるので、私は好きです。